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家についてから、ニコラはエルの無事な姿を見てすぐにエルを抱きしめて喜んだ。
しかし、ぐったりしたまま目を開けない薫を見るや否や、顔を青ざめた。
その後は先ほど、ヒューブがエルに触れようとしてエルが泣き始めたことをきっかけに一悶着あったが、シコラがどうにか丸くおさめた。
なんだかんだで二人は鴛鴦夫婦には変わりない様で、
口を挟むなどおせっかい以外の何ものでもなさそうなその雰囲気に、勝利と有利、それに村田は苦笑いだった。
「渋谷の家族といい勝負だよねぇ?」
ニコラたちを見ながら村田がすまして答えると、有利がそれに困ったように返した。
「ええ?いや、うちはここまで熱くないっていうか……とにかく白いカラスがなんでエルを連れて行こうとしたのかっていうのが問題で…」
仕切りなおした有利の言葉に、思わず勝利も反応した。
「そうだ、あいつら一体何ものなんだ?」
その後、ニコラたちも含め、白いカラスについての説明を有利たちがすることになった。
大まかな白いカラスの騒動を説明し、勝利が愕然とした。
「秘密結社?」
勝利の言葉に、有利はたてに頷いた。
「今まではあちこちで剣を盗んでたんだけど…」
「彼らが何を考えているにしろ、エルが狙われたのは確かだ。そして、薫も…。ここにいるのは危険だ、血盟城に移動しよう」
村田がそう提案し、
「そうだよ、あそこなら皆が守ってくれるし!」
と有利がすぐさま同意した。
それから、暫くしてコンラッドとヴォルフラムも村に到着し、ニコラたちを説得した上で血盟上城へと向かうことになった。
相変わらず、馬車に乗っても薫はぐっすり寝たままで、一同はそれを心配しつつ、出発することになった。
深い霧や逃げ場のない一本道を通るため、襲撃されるのではないかと内心ひやひやしていたが、なんとか血盟城が見えてきて、一同はほっとしつつ旅路を急いだ。
しかし、そんなひと時もつかの間、エルが突然堰を切ったようになき始めたかと思えば、白いカラスが以前より人数を増して、現れた。
山の上から馬にまたがり、一気に駆け下りてきた白いカラスは、前方から近づいてくる。
「あれは?」
場所の中から首を出して、有利がたずねると顔を引き締めたコンラッドが答えた。
「敵です」
「ずいぶんと大胆だな、われわれの土地に土足で踏み込むとは」
ヴォルフラムとコンラッドが、片手で剣を構える。
「俺たちが突破口を開きます。陛下たちはこのまま、血盟城へ」
「俺も戦う!」
「いえ、陛下の役目はエルとカオルを無事に血盟城まで送り届けることです」
勢いづいた有利をコンラッドが諌め、有利は場所の中で泣きじゃくるエルを見た。
そして、自分の傍らで眠っている薫を見…、
「あれ?」
「起きた!?」
この状況で薫が目を覚ましていた。
まだ寝たりないのか、かなり眠そうに目をこすって一同を見回している。
「何?どこここ?」
「あー!なんでよりによって、今起きるかなぁ!」
有利が頭を抱えてうなりだしたので、益々薫は混乱してしまったようだ。
「え?起きちゃまずかったの私?」
「いや、まぁ、ね。とりあえずおはよう」
「ん、おはよう」
一応、皆に挨拶したつもりだったのだが、誰も答えなかった。
目の前でニコラに抱きかかえられているエルは泣き止む気配もないし、薫は辺りを見回して皆に説明を請うように見つめた。
「とりあえず、薫はじっとしてて」
「有利?」
「コンラッド。俺は、無事に二人を血盟城に届けてみせるよ」
馬車に平行して走るコンラッドに有利はそう告げた。
「それが一番重要な事だろうが!」
すると、前方を走っていたヴォルフラムが前を見据えたまま、そういった。
「行くぞ、ヴォルフラム!ヒューブ!」
そして、コンラッドの掛け声で三人が一気に馬の横腹を蹴り上げる。
「ああ!」
「続けー!」
ヒューブが剣を抜いて叫ぶと、眞魔国から遥々来ていた護衛たちもヒューブ達に続くように馬を走らせた。
しかし、前方に現れた白いカラス達は突然馬から飛び上がるように上に跳ね、法力を放った。
彼らの攻撃により、眞魔国の護衛が幾人か馬から落とされた。
「何!?」
「魔族の国で砲術を使うのか!?」
「僕に任せろ!」
比較的馬車近くを走っていたヴォルフラムが自ら前線へと赴く。
「炎に属するすべての粒子よ、創主を屠った魔族に従え!」
叫びとともに剣に炎をともし、それを四方八方に飛び散らせ、守るようにその炎は馬車を包んだ。
なんとか、上手く突破できたようだ。
「やつらをここで、足止めする!」
コンラッドは的確な指示を護衛たちに叫びながら、馬車を見つめた。
(陛下、頼みましたよ)
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