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さっきの出来事の一連が『決闘の申込および受諾』だと知らされ、薫は小さくため息をついた。

だが、意外にも薫やコンラッドや村田は落ち着いている。
「あぁ!ゴメン!マジでゴメン!」

有利は何度も焦って謝ったが、気にしないでと薫は言った。

それよりも薫には気になることがあったからだ。

「あの子って貴方の婚約者なの?」

「いや、俺がまだ来たばっかりの時に今みたいな感じで『勘違いと成り行き』で」

有利は、あははと力なく笑う。

「でも、綺麗な子ね」

薫は興味津々に、有利に言った。

有利は苦笑いをしながら、薫を見た。

「いやいや、魔族的には双黒は不動的美らしいから」

そこでふとヴォルフラムが真正面から薫を見たときのなんとも言えない顔を思い出し、有利は呟く。

「ぁ、もしかして妬いてたのか?ヴォルフ…」

有利はなんとなく薫を改めて、まじまじとみた。

薫は、確かに美人な部類に入る方だ。

女の子故か、手入れの行き届いた漆黒の長い髪と、どこか気品のある雰囲気を兼ね備えた凛々しい薫は、可愛いというより、綺麗という言葉が似合いだろう。

そんなことを有利が考えていると、薫が話をふった。


「ヴォルフって言うの?さっきの子」

「え?あぁ、そうか。
まだ自己紹介させてなかったじゃん!?
さっきのはフォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。」


「なんか難しい名前…」

顔をしかめた薫#に、有利は微笑み返した。

「あはは、そのうち覚えられるよ」

そして、有利の司会混じりでギュンターやグウェンダル達の紹介を受けた。

なかなか難しいカタカナばかりで薫は苦戦を強いられそうだ。

一通り、説明が終わって薫はふと思いついたように言った。


「――…そういえば決闘って何するの?」

広間が再びしん、となる。

誰もが避けていた会話を本人自ら出したことに対する驚きと、

薫#の出方をみる期待の為か、皆の視線が薫#に向けられた。

「そうだよ!それ!

俺、今からヴォルフラムのとこ行って説得してくるよ。」

薫#の安否を気遣う有利が、そういって慌てて駆け出した。

しかし、そんな有利の手を村田が掴む。

「大丈夫だよ、渋谷。彼女なら。
それに撤回するのも大変だし。」

(彼女が果たして本物か、試すチャンスになる…)

村田は一人、思案した。

しかし、有利は絶対反対と言うように怒鳴った。

「何言ってんだよ!?
こんな女の子にいきなりヴォルフラムと決闘させるなんて。」


「いや、だから決闘って何するの?」

有利の怒声にも構わず、薫はもう一度聞いた。

どうやら薫は、退く気はないらしい。

「本人はやる気らしいな。」

グウェンダルがため息混じりで静かに呟く。

続いて、説明を求める薫に呼応するように

「決闘とは、取り決めた方法で闘って勝負を決することです。」

と、ギュンターが見かねて解説しはじめた。

「有利陛下は、すもうで華麗なる技を披露しておられました。
それはもう優雅に美しく、あまりの素早さとその…。」

「はいはい、ギュンター話それてるから。要は闘って勝てば良いんだけど、薫って特技とかある?」
有利に聞かれ、しばらく考えてから意を決して言う。

「やっぱり剣道かな…。」

「剣道!?スゲー剣道やってんの!?
あぁでもヴォルフラムも結構やりそうな気が…。」


有利は頭を抱えて、悩み出した。
「大丈夫だよ、渋谷。
彼女は全国制覇者だから。」

「マジで!?」

これには本気で驚いたらしい有利。
「この方は、陛下と貎下の国で随一なのですか?」

「まぁ、同い年ぐらいの層の中ではね。」

ギュンターのツッコミに、補足用に薫が言う。

「じゃあ、決闘は剣道でやる?」
有利の意見に、

「うーん、剣道のルールとか相手は知らないから、普通の決闘と一緒で良いんじゃない?
フォンビーレフェルト卿は、西洋風の剣だし。」

村田が考えながら、そう言った。
「まぁとりあえず倒せば良いワケね。」

「そうだな……って、待て。
マジで!?でも、それじゃあヴォルフラムは真剣でやるだろ。」

「それなら大丈夫ですよ」

ヨザックが、薫の持っている布か何かで包まれた細長いものをさす。

「何それ?」

「開ければわかるわ」

薫はそう言って、広間の机の上でそれを開いた。

「日本刀!?」

「これは見事な剣ですね」

ギュンター達もしきりに感動している。

とりあえず決闘の話はそれで終わった。

皆、期待と不安な視線を薫に送り、広間を出ていった。




「――…なぁ、村田?」


広間を出てから、有利は村田に聞いた。

「何?渋谷?」

「なんで薫がここに来たのか、本当にわからないのか?」

「確証がないとなんとも言えないから。
たぶん眞王のイタズラだと思うよ」

村田は苦笑いした。

(面倒だから、彼女の存在を眞王に知らせてなかったのに…。
気づかれたってコトかな。)

「え?何?眞王って誰のこと?」

聞きなれない単語に薫が反応した。

(やっぱり覚えてない…。
彼のことも、僕のことも…)

村田は頭でわかっていたながらも考えてしまう自分にため息をついた。

「ん〜、眞魔国創設者って感じかな。
なぁー村田?」

「……。」

(――…だとしたら、何故眞王は何も覚えていな彼女を連れてきた?)



ふと村田は一人考えこんでしまった。

「村田君?」

「おい、村田!」

「―――…ん、何?」

二人に声をかけられ、ハッと我にかえる。

「大丈夫?」

心配げな薫をよそに村田は珍しく、

「ん、ちょっと疲れちゃったみたい。僕はもう寝るよ。」

と、一人自室へ向かっていってしまった。


村田の後ろ姿を見送って暫くしてから、有利はある提案を口にした。

「あぁ、そうだ。
俺の部屋に来ないか?
村田のクラスメートだって言うしさ、話したいんだ」

「ええ、私は良いけど。」

とはいえ、背後にいるギュンター達の視線がちょっと痛い。

薫を少なからず、疑っているらしい。


「じゃあ、俺も一緒に良いですか?」


それを察してか、コンラッドがさりげなく言う。


(うーん、空気が読める人だ)

薫は感心しながら、コンラッドに感謝した。



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