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ヒューブは、現れるや否や馬から飛び降り、エルをさらった輩に斬りかかる。
一人、二人となぎ払っていくが、エルを抱えた奴はつり橋の向こう側。
(ちっ…。)
一人戦うヒューブを勝利はただ、見守ることしかできない。
何があったのか、薫はひどい高熱で息は荒く、ぐったりとしている。
勝利はそんな薫の体を気遣いながら、ヒューブを見やった。
彼らが目配せをして頷いた後、斬りかかってくる彼らを前に、ヒューブは大胆にもつり橋の縄を断ち切った。
ヒューブはさっと飛び上がり、斬りかかった輩二人は川へとまっさかさまに落ちていく。
ヒューブはそのまま、華麗な跳躍でエルを捕らえている輩に斬りかかる。
「――…。」
しかし、ジェネウスがすっと手をかざし、何らかの衝撃をヒューブに与えた。
瞬間、ヒューブの体が宙に舞い、勝利の隣へと土ぼこりを立てて落ちた。
エルを抱えた輩が逃げようと背を向ける。
(まずいな、ここは俺がやるしか…。)
青い顔をした薫を腕の中から放し、勝利は力を集中させる。
そして、勝利の魔力が水の龍と作り出し、エルを抱きかかえていた輩を捕らえた。
ジェネウスもはっとして勝利を見る。
勝利はなれない魔力の使い心地に多少息が乱れているが、その力の源にはゆるぎない決意があった。
(いかせないっ!)
その決意を瞳に宿し、鋭くジェネウスをレンズ越しに睨む。
「双黒…。」
視線を受けたジェネウスはただ、そう呟くだけ。
(騎士殿と何か、関係があるのか。)
勝利はそんなジェネウスにかまわず、川の水を利用して次々にエルを抱きかかえている輩にぶつけた。
やがて、衝撃に耐え切れずにエルが輩の手から離れ、骨飛族がそれを受け取った。
勝利はそれでも表情を緩めずに、ジェネウスを厳しく睨み返す。
ジェネウスの視線はいつしか、勝利からその傍らに横たわる薫に向けられていた。
(こいつらの目的はいったい…?)
―――――…
(なんだ…あれ?)
村田と馬にまたがった有利たちが、到着したときに勝利の数多の水の龍が視界に入った。
村田は川向こうの岩の上に立つジェネウスを見た。
思わず、その視線がぶつかる。
ジェネウスはきびすを返してその場を後にした。
村田の表情が一瞬厳しくなったのを知らずに、有利は頭上を飛ぶ骨飛族に抱きかかえられたエルを見て安堵した。
「エル!」
そのまま勝利たちに駆け寄り、勝利に抱きかかえられたエルを見れば、特にエルは怪我もしておらず、大事無い様子だった。
(…とりあえずは何もないか。)
村田が有利の後ろでほっと一息ついたのもつかの間、ヒューブが深刻な表情で腕に抱いている薫を見て、二人は息を呑んだ。
「どうしたんだ!?」
「すごい熱だよ…。さっきまであんなに元気にしてたのに。」
パーティー会場ではまるで予想もできなかったほどの重い病状。
困惑気味に有利が視線で勝利に説明を求めた。
「俺にもよくわからない。
ただ、エルをさらったあいつらに会ってから病状が悪化したのは確かだ。」
しかし、勝利に言えることもそれしかない。
そこで沈黙したまま固まっている中で、口を開いたのは村田だった。
「ひとまず、戻ろう。ニコラも心配してるし。」
「そうですね。」
ヒューブも同意し、有利と勝利も縦に首をふる。
村田達はジェネウスが去った場所を一度見やってから、その場を後にした。
誰もが沈黙を破ることなく、村へと急いだ。
村田の眼鏡が怪しく確信を帯びて、闇夜にきらめく。
(――…まさか、接触した?)
こめかみに冷や汗が流れた。
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