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(少しぐらい、運動をすべきだったな。)

勝利は内心そんなことを思いながら、

走り抜ける薫に後れを取らないように必死に走った。

途中、倒れた木ですらひょいと飛び越える身軽な薫に対し、

勝利は少なからず足手まといだった。

(くそっ…。)

自分が何故ここにいるのか、そんな答えのない問いを抱きつつ、勝利はただ己の無力さに打ちひしがれた。

「勝利。」

薫の張り詰めた声が、勝利を現実に引き戻した。

少々崩れた呼吸の調子を戻しながら、薫は勝利を立ち止まって見た。

「大丈夫?」

「…あぁ。」

「そう、しっかりしてよ。おにーちゃんなんだから。」

「……。」

全くもってそのとおりだと思った。

無意識かわからないとはいえ、薫の言葉で勝利もやっと覚悟が決まった。

――――俺に出来ることをしよう、『兄』として。


そして、再び走り出し、森が一度切れる場所へと出た。

つり橋をはさんだ岩の上に、あからさまに怪しい輩が数人いる。

薫は、キッと彼らを見据えた。

その瞬間だ。

再び、激しい痛みが激しく脳を突いた。

(また…!?)

アーダルベルトの時と同じように、何か『思い出せ』と身体中の血が騒ぎ立てる。

しかし、もう一方でそれを拒否する力が薫野中で渦巻いている。

相対する二つの大きな力。

ふと、彼らの中心に立つ男と目が合った。

何故だろうか、彼を知っているような気がした。

突如としてあふれ出す記憶の波。

………『騎士殿。』

彼の唇は確かにそう動いていた。

(ああ、そうだわ。私は知ってる。)

頭痛は止まずに薫の脳を刺激し続けたが、それとは相対的に不気味なほど静かな空気が薫を包む。

『騎士』のとして過ごした時代の記憶の断片が、視えた。

薫の中に、何か今までと違う大きな力が身体中からわきあがってくる気がした。


「…ジェネウス。」

自然と、本能のままに薫の唇から吐息のような声が漏れた。

「どうした?真っ青だぞ。」

勝利が、薫を見る。

しかし、薫には全く聞こえていない様子で、ただジェネウスを見たまま、微動だにしない。

時が止まったかのようだった。

(…薫?)

いつもと違う様子の薫を不審に感じた勝利は、現実に引き戻すようにその腕をつかんだ。

「……っ!?」

薫は恐怖に引きつった顔で、勝利の腕を振り払った。

明らかにおかしい。

「おいっ!薫!!」

エルどころではなかった。

目の前に立つ薫は、頭を抑えたまま蒼白な顔で勝利をうつろに見つめている。

その間も、骨飛族が泣き叫ぶエルを取り戻そうと辺りを飛び回っては、倒されていた。

エルが骨飛族を呼び寄せているのだ。

だから、ジェネウスも目をつけた。

エルの骨飛族を呼び寄せるほどの力に…。

しかし、誤算があった。

そう、『騎士』が転生していた。

(何故、騎士殿が…)

ジェネウスは半ば困惑気味に薫を見ていた。

勿論、マントに隠れ、その動揺したそぶりは誰にも悟られてはいないが…。


そんな中、勝利のこめかみに冷や汗が伝う。

(一体どうなってるんだ…。)

エルと薫を交互に見比べ、ジェネウスを見上げた。

(俺は、どうすればいい?)

そんな勝利の葛藤の最中、隣で薫が倒れるのとほぼ同時に、馬に乗ったヒューブが現れた。




あきゅろす。
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