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「勝利!!」

勝利の元へ駆け寄ろうとするも、

怪しい輩に前をふさがれ、仕方なく退く。

「誰だ、そいつらは!?」

「…わからないわ。」

少し遠巻きに叫ぶ勝利の声に、薫も叫び返した。

じりじりと迫る輩に、目配せしつつ、薫はあるものに気がついた。

骨飛族が、エルを渡すよう、合図してくれていたのだ。

刀もなく、両手をふさがったままではどうしようもないし、

さすがに空までは飛べないだろうと、

隣に飛んできた骨飛族に、エルを預けた。

「頼むわよ。」

しかし、あろうことか、怪しい輩は、

空へと舞い上がった骨飛族を、棍棒を投げて打ち落としたのだ。

コントロールは抜群で、骨がバラバラになり、骨飛族が落ちてくる。

勿論、宙に放り出されたエルも同様である。

(まずい…地面にぶつかるっ!!)

薫が、全力疾走するも、エルの落下速度には間に合わなさそうだ。

勝利も同様にして、同じ場所へ駆け寄る。

だが、侵入者は、手馴れた手つきでそんな二人よりも早く、

滑り込むかのように、エルを見事に寸前で抱きとめた。

そして、すぐに立ち上がって、森へと逃げ込んだ。

「待ちなさい!!」

「エル!!」

ようやく、合流して勝利とともにエルを追いかける。

それにしても、彼らの足は思ったより速かった。

日ごろから鍛えているせいか、足はそんなに遅くはない。

しかし、追いつけそうにはなかった。

勝利は、すでに息切れも激しく、

そんな勝利に多少あわせつつ、先を急いだ。

「……っ!?」

(何…!?)

どうしたことか、突然薫に激しい頭痛がし始めた。

頭をかち割る様な脳に響く、激しい痛み。

「どうした?」

勝利が、心配げな目で薫を見た。

「…いや、なんでもないわ。」

しかし、今はエルの誘拐で、頭痛だのなんだの言ってる暇はないだろう。

そうして、自分のことは後回しにして、

薫は、いつもの出調子で勝利に微笑んだ。

「それより、先を急がないとね。」

追随を許さぬ薫の強い口調に、勝利もただ、

「そうだな。」

としか、言わなかった。

道を進むにつれて、だんだんと強くなる痛みをこらえ、

ただ、薫は走り続けた。

頭痛から意識を遠ざけるように、エルだけのことを考えて…。







一方、パーティー会場でも、骨飛族の様子がおかしいと、

有利や村田たちが、勝利たちが向かった離れに向かい、

ようやく何か起こったということを理解した。

「エルは?」

「勝利もいない…。薫まで…。」

いなくなったわが子を心配するニコラ、

勿論、薫や勝利の安否も疑われる状況だ。

そんな中、ふと視界をよぎったもの…。

「これは…。」

村田が手に取った、それには記憶に新しい印がついていた。

村田もはっとしてそれを見つめる。

「白いカラスのマークじゃん。」

「うん、宝剣泥棒だけじゃなく、

誘拐まで…。」

そんな二人の言葉に、ニコラが悲鳴に近い声を上げた。

「誘拐!?」

そんなニコラを見て、あわてて有利も口を濁した。

「あぁ、いや…。そうと決まったわけじゃなくて…。」

ニコラは困惑状態で、口を手に当てて震えていた。

ヒューブは、そんな中颯爽と馬に乗り、

「エルは必ず取り戻す。」

そう告げて、返事も聞かずに森の中へと入っていってしまった。

ヒューブを見送ったニコラは、ショックのあまり蒼の場に倒れこんでしまい、

あわてて有利がそれを抱きかかえた。

「ニコラ!?」

混乱気味の有利達をよそに、村田も一人、めがねを光らせて考えをめぐらせていた。

(一体…何のために?)





――――その答えは、宙を舞うばかり。






あきゅろす。
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