10
「勝利!!」
勝利の元へ駆け寄ろうとするも、
怪しい輩に前をふさがれ、仕方なく退く。
「誰だ、そいつらは!?」
「…わからないわ。」
少し遠巻きに叫ぶ勝利の声に、薫も叫び返した。
じりじりと迫る輩に、目配せしつつ、薫はあるものに気がついた。
骨飛族が、エルを渡すよう、合図してくれていたのだ。
刀もなく、両手をふさがったままではどうしようもないし、
さすがに空までは飛べないだろうと、
隣に飛んできた骨飛族に、エルを預けた。
「頼むわよ。」
しかし、あろうことか、怪しい輩は、
空へと舞い上がった骨飛族を、棍棒を投げて打ち落としたのだ。
コントロールは抜群で、骨がバラバラになり、骨飛族が落ちてくる。
勿論、宙に放り出されたエルも同様である。
(まずい…地面にぶつかるっ!!)
薫が、全力疾走するも、エルの落下速度には間に合わなさそうだ。
勝利も同様にして、同じ場所へ駆け寄る。
だが、侵入者は、手馴れた手つきでそんな二人よりも早く、
滑り込むかのように、エルを見事に寸前で抱きとめた。
そして、すぐに立ち上がって、森へと逃げ込んだ。
「待ちなさい!!」
「エル!!」
ようやく、合流して勝利とともにエルを追いかける。
それにしても、彼らの足は思ったより速かった。
日ごろから鍛えているせいか、足はそんなに遅くはない。
しかし、追いつけそうにはなかった。
勝利は、すでに息切れも激しく、
そんな勝利に多少あわせつつ、先を急いだ。
「……っ!?」
(何…!?)
どうしたことか、突然薫に激しい頭痛がし始めた。
頭をかち割る様な脳に響く、激しい痛み。
「どうした?」
勝利が、心配げな目で薫を見た。
「…いや、なんでもないわ。」
しかし、今はエルの誘拐で、頭痛だのなんだの言ってる暇はないだろう。
そうして、自分のことは後回しにして、
薫は、いつもの出調子で勝利に微笑んだ。
「それより、先を急がないとね。」
追随を許さぬ薫の強い口調に、勝利もただ、
「そうだな。」
としか、言わなかった。
道を進むにつれて、だんだんと強くなる痛みをこらえ、
ただ、薫は走り続けた。
頭痛から意識を遠ざけるように、エルだけのことを考えて…。
一方、パーティー会場でも、骨飛族の様子がおかしいと、
有利や村田たちが、勝利たちが向かった離れに向かい、
ようやく何か起こったということを理解した。
「エルは?」
「勝利もいない…。薫まで…。」
いなくなったわが子を心配するニコラ、
勿論、薫や勝利の安否も疑われる状況だ。
そんな中、ふと視界をよぎったもの…。
「これは…。」
村田が手に取った、それには記憶に新しい印がついていた。
村田もはっとしてそれを見つめる。
「白いカラスのマークじゃん。」
「うん、宝剣泥棒だけじゃなく、
誘拐まで…。」
そんな二人の言葉に、ニコラが悲鳴に近い声を上げた。
「誘拐!?」
そんなニコラを見て、あわてて有利も口を濁した。
「あぁ、いや…。そうと決まったわけじゃなくて…。」
ニコラは困惑状態で、口を手に当てて震えていた。
ヒューブは、そんな中颯爽と馬に乗り、
「エルは必ず取り戻す。」
そう告げて、返事も聞かずに森の中へと入っていってしまった。
ヒューブを見送ったニコラは、ショックのあまり蒼の場に倒れこんでしまい、
あわてて有利がそれを抱きかかえた。
「ニコラ!?」
混乱気味の有利達をよそに、村田も一人、めがねを光らせて考えをめぐらせていた。
(一体…何のために?)
――――その答えは、宙を舞うばかり。
無料HPエムペ!