[携帯モード] [URL送信]

そして、夜になった。

有利は、自信ありげに、堂々と新郎新婦の前で語り始める。

「ええと、結婚生活で大切なのは、三つの袋と申しまして、

1つ目は、池袋。

2つ目は、非常持ち出し袋。

更に、3つ目が、手袋とかいわれております。

特に最後の袋は、非常に重要だと言われております。

そう!手袋はいつも、二つで1組です。

ひとたび、対となったお互いは、

たとえ離れ離れになったとしても、必ず再びめぐり合うのです!!」


(…なんか、面白いのに説得力があるような、ないような…。)

微妙な面持ちで、薫は有利の言葉を聴いていた。

隣では、村田が満面な笑みで有利を見ていたが、

かわって勝利は、薫と同じく微妙な表情。

「今宵、誓いを交わした二人もまた、永遠に対であり続けるでしょう!!」

有利が言い終わると、民衆から拍手喝采。

とりあえずは、大盛り上がりのようで、薫は有利を見直した。

(すごいなぁ〜。)

有利はいつの間にか、人々の関心を吸収する王としての素質をめきめき向上させているらしい。

(私もがんばらないと…)

薫は、そう誓った。

ニコラとヒューブも顔を見合わせて、幸せそうに微笑みあう。

有利は話し終えて、ひと段落すると、薫のもとに歩いてきた。

「急な話なのに、ずいぶん人が集まってくれたね。」

村の人々は、それぞれ祝いの言葉をニコラたちに述べている。

有利の言葉に、薫もうなずいた。

「うん、良かったわ。幸せそうで。」

「そうだね。」

花嫁姿のニコラは、村の女の人たちに褒められて、うれしげにほほを染めていた。

隣で、ヒューブもそんなニコラをほほえましげに見つめている。

二人の後ろの方で、エルも村の子どもたちに囲まれながら、きゃあきゃあ騒いでいる。

幸せな、理想の家庭とも呼べる光景だ。

それをみて、有利も続けた。


「村の人たちも喜んでくれてる。

エルは、人気者みたいだし、ニコラもすっかりなじんでるみたいだね。」

有利の言葉に、村田もうなずく。

「うん。グリーセラ卿も、あんなに村の人と親しげに話すなんて、

昔の彼からは創造できないことなんだろうね。

かつては、純粋な魔族であることや貴族であることに、

とてもこだわっていたそうだし。」

「…そう。」

苦難あっての今だと知りながら、薫は複雑な思いで

ニコラたちを見やった。

そんな話をしていた矢先、

突然エルが、大声で泣き始めた。

エルの周りにいた子どもたちも慌ててのけぞる。

「あぁ、泣いちゃった。

今は我慢してくれ〜って言っても、通じないよなぁ。」

慌てて、有利が駆け寄り、続いてニコラたちも駆け寄った。

「エル、泣かないで。」

ニコラが優しく語り掛けるが、一向に泣き止む気配はない。

ヒューブはそこでふと、昼間のことを思い出した。

「そういえば、さっきも突然泣き出したな。

具合でも悪いのか?」

そんなヒューブの言葉を聴いて、ニコラはエルの額に優しく手を添えた。

「熱もないし、大丈夫だと思うわ。

赤ちゃんがぐずるのは、よくあることよ。

いつもと違う環境で、落ち着かないのかもしれないわ。


少しの間、静かなところで様子を見ます。」

そういって、ニコラは有利たちに、笑いかけた。

「え…でも。」

有利は、ニコラをとめようとしたが、

有利の言葉を途中で遮り、薫が前に出た。

「主役の花嫁達が、抜けてもダメでしょう?

私が面倒を見てるから、ニコラはここにいて。」

そういって、エルを抱きかかえ、あやした。

「俺も、面倒見るよ。」

薫だけでは、不安なのか、勝利も自ら立候補した。

「え…でも。」

「そうしなよ。」

遠慮するニコラに、有利は満面の笑みで答えた。

「大丈夫、二人とも、子守うまいからさ。」

有利が、一言添え、ニコラも一度薫に抱かれたエルを見やってから、

「ありがとうございます。それでは、お願いします。」

と、礼を述べた。

それから、薫は、エルを抱きかかえたまま、

勝利と、昼訪れた離れへと向かった。

誰もいない離れは、とてもひっそりとしている。


勝利としては、『できること』とは何かを見つけられず、

悩んでいた面があった。

だからこそ、エルをあやすことぐらいはしたいと思った。

有利は王として、村田は大賢者として、薫は騎士として


それぞれが、役割を担い、この世界で生きている中で、

勝利は何所となく、居場所を求めていた。

(俺にできることはなんだろうか…)

「勝利、座らないの?」

離れの家の前の長いすに腰掛けて、薫が勝利を見ていた。

「あ、あぁ。」

考え込んでいたために、生返事をしてしまった。

薫は、首をかしげて勝利を見る。

「悩み事?」

時々、薫は動物並みに鋭い。

勝利は、空を仰いで、短くまぁなと答えた。

「…そう。話したくないなら、別にかまわないけど。」

薫は深くは言及しなかった。

それがとても、今の勝利にはありがたかった。

「悪いな。」

「別に…。でも、なにかあったらちゃんと言ってね?」

「…わかってるさ。妹に心配をかけるほど、俺も落ちぶれてはいないつもりだ。」

そうういうと、薫は安心したように笑った。

エルをあやしながら、そんな話をしていたが、

エルは一向に泣き止まない。

「かしてみろ。」

「…うん。」

勝利が見かねて、代わってあやすも、エルは全く泣き止まない。

「どうしたのかしら?」

「おしめか…。それとも…あれか!!」

勝利が突然叫んだので、薫はびくっとして勝利を見た。

「…あれ?」

「ぬいぐるみだよ。」

「あぁ!!まずいわね。忘れてたわ。」

エルの脇に添えてあった、ぬいぐるみ。

赤ん坊をあやすのに、ぬいぐるみは必須だ。

「じゃあ、私がここで待ってるわ。」

「そうか、頼む。」

勝利は、薫に目配せし、母屋へと走っていった。


「エル、いい子ね、もう少ししたら、

勝利が、お人形さんを持ってきてくれるわよ。」

薫は優しく、エルをあやしていた。


その時だ、ガサッと離れを囲む森の草がなった。

(…誰?)

薫は、思わず愛刀を見たが、

そこにいつもあるはずの日本刀はなかった。

(しまった…!?)

エルを抱きかかえ、両手はふさがっている上に、

グリーセラ卿の領土だから心配ないという言葉を信用し、

さすがに結婚式に刀を構えていくのは、失礼だと思い、

離れの家の中に安置してあるのだ。


しかし、素手でも何でも、エルは守らなければいけない…。

薫は、エルを抱きかかえたまま、立ち上がる。

「…誰?そこにいるんでしょう?」

薫は、毅然とした表情で冷淡に叫んだ。

しかし、物音は一向にしない。

(…刀を取りにいくしかないわね。)

薫が、ふっとそんなことを考えていると、

何者かが、エルを奪おうと薫に殴りかかってきた。

勿論、騎士たる薫は、そうやすやすとはやられない。

反射的に身を翻し、エルを死守する。

とはいえ、両手がふさがったままでは、うまく行動できない。


その時、勝利もぬいぐるみを片手に戻ってきた。

「薫!?エル!?」



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!