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しばらくして、ニコラが戻ってきた。
「さっき、エルの泣き声がしたみたいだけど、
落ち着いたみたいね。」
そういって微笑み、持ってきた焼き菓子をテーブルに置いた。
「うわぁ!うまそうっ!」
有利が菓子に手を伸ばしたとき、
ニコラの視界に、有利たちと一緒に流れ着いた美子の髪飾りが映った。
「あの、陛下…。気になってたんですけど、それは?」
ニコラに聞かれ、有利はあぁと花の髪飾りを見た。
「これは、おれのおふくろのものなんだ。
一緒にこの世界に来ちゃって…。
派手だろ〜、これじゃどっちが花嫁さんだかわからな…。」
そこまで言って、有利ははっとした。
「そういえば、ニコラと初めてあったとき、花嫁衣装だったよね?」
有利は、ニコラとの出会いを思い出していた。
グヴェンダルと移動中に、入り込んだ協会。
ニコラも思い出して、微笑んだ。
「ぁぁ、そうでしたよね?
なんだか、懐かしいなぁ。」
とはいえ、事情を知らない薫は首をかしげた。
勝利も不満そうに口を開いた。
「…どういうことだ?」
それから、有利がニコラとの出会いなどを説明(以下略。
「…とまぁ、そういうわけなんだ。」
有利がまとめ上げると、ニコラも勝利と薫に微笑んだ。
「色々ありましたが、今はこうして幸せに暮らしています。」
「…そう。」
一息つく薫の横で、
勝利はなおも不機嫌そうにヒューブをにらんでいた。
村田が不意に思いついて、ヒューブを見る。
「あれ?もしかして、グリーセラ卿は結婚式を挙げてないの?」
「ええ。そうなります。」
ヒューブは淡々と答え、ニコラが続いて目を閉じる。
「逃げ回って、離れ離れになって、
ようやく会えたときに、エルが生まれたので…。」
そんなニコラをほほえましげに見つめながら、ヒューブは言った。
「いつか、式を挙げなければと思ってはいましたが…。
なかなかそのような時間がとれずに、今に至りました。」
「そんなこと、思っていてくれたんだ。」
ニコラもうれしそうに、ヒューブを見つめ返す。
(…良いなぁ。家族って。)
薫は、再びそんな憧れを抱いた。
「ねぁ、有利。結婚式開かない?」
ふいに薫が提案した。
有利が、急に席を立つ。
「いいよ、それ!薫、さすがだ。
良し、結婚式を挙げよう!!
今日、これから!!」
「「「ええ!?」」」
一同は、顔を丸くして叫んだ。
薫も、今日という日付には少々驚いたが、
暇のない二人なら今日が最適かもしれないと思い直した。
「膳は急げ!思いたったが、吉日だよ!!」
「吉日…?」
知らない単語に、首をかしげるヒューブ。
慌てて薫が、フォローに回った。
「ん〜、まぁ絶好の結婚式日和ってことね。」
「そう、そんな感じ!
なんたって、滅多に還って来ないヒューブがいるからね!」
そんな有利に続き、ようやく村田も納得したように話し始める。
「しかも、魔王自ら立会い人になるなんて、こんな機会はないよ。
ちょっと頼りないかもしれないけど…。」
そんな言葉に、ヒューブは瞳を伏せた。
「いえ、こんな光栄なことはありません。
ただ、突然で…。」
ちらりとニコラを見て、視線が合うと、ニコラは照れたように視線をそらした。
「ど、どうしよう!?
全然、心の準備ができてないわ。
ええと、まずは花嫁衣裳を準備しなくちゃね!
そういえば、お母様がお嫁入りのときに着ていた衣装があるって、
聞いたことがあるわ。
貸していただけるかしら?」
「…ぁぁ。」
ニコラの剣幕に、半ば押されつつ、ヒューブはうなずいた。
それから思わず、顔を見合わせ、
ニコラとヒューブは自然と笑みを浮かべた。
(うわぁ〜、ラブラブだなぁ。)
薫も、ほほえましげに二人を見つめる。
「良し!決まった。
じゃあ、早速、準備に取り掛かろう!」
それから、一同は総出で準備に取り掛かった。
会場の設置、装飾、料理のための食材調達など。
薫は、料理担当になった。
有利たちは、蜀台などを並べたりしている。
(なんか、こういうの楽しいわね…)
薫は、そんなことを思いながら、
腕によりをかけて、料理を作っていた。
―――私も誰かと、こういう日を迎えることがあるのだろうか。
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