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一同は、ニコラたちが住んでいる離れの屋敷に案内してもらった。
最初は、隣にあるグリーセラ家の大きな母屋にすんでいたようだが、
小さな家のほうが落ち着くらしく、
今は離れで過ごしているらしい。
「どうぞ、」
ニコラが、茶を差し出してくれた。
「ありがとう。」
「なんだか、申し訳ないね。
たまの休暇を楽しんでいるところを邪魔しちゃって…。」
村田は、申し訳なさそうに言った。
「いえ、お気になさらず。」
そこで、有利もはっと気がついたように言う。
「そうか。ヒューブは忙しくて、めったに家に帰れないんだね。」
「でも、卿は家族で出かけられましたし、
思いがけず、陛下たちにまでお会いできて、うれしいんですよ。」
ニコラは、そういって有利たちに微笑んだ。
「そういってもらえると、俺もうれしい。」
有利もどこか安心したように、そういって、茶を飲んだ。
「あ、お菓子が焼けたみたいです。
ちょっと、みてきますね。」
ニコラが一礼して、その場を去る。
それからすぐに、エルがなき始めた。
あわてて、ヒューブがあやすものの、泣き止まない。
「べろべろばー。」
「おなかがすいたのかなぁ〜」
有利と村田もあわてて、参戦。
「食事はすませたばかりなのですが…。」
とはいえ、一向に泣き止ませる術もなく、
慌てふためく一同。
薫は、意外にも落ち着いてそれらをみていた。
たらい回しにされていた当時、
親戚の赤ん坊などの面倒をよく見ていたのだ。
(まさか、こんなところで役に立つとはね。)
薫がほっと息をつき、立ち上がろうとした瞬間。
隣にいた勝利が先に立ち上がった。
「ちょっといいか。」
勝利は、ヒューブに駆け寄り、エルを自分の腕に抱きかかえた。
そして、意外にもあやし始めたのだ。
「おぉ〜、よしよし。
良い子だね〜良い子だね〜可愛いね〜。」
思い切り猫なで声で、エルを軽くゆすりながらあやす。
(かなり、なれてるわね。)
さすがの薫も驚いて、勝利を見た。
エルは、勝利の腕の中で、きゃあきゃあ笑い始めた。
「勝利が赤ちゃんと相性いいなんて…。」
「お前が子どもの頃も、よくこうやって面倒見たからなぁ…。
なれてるんだ。」
「ふ〜ん。」
勝利はうれしげに、エルをあやしながら言った。
(良いなぁ…。家族って。)
薫は、そんな勝利たちを横目で見つめていた。
「ね、私も抱いて良い?」
「…構いませんが。」
「ありがとう。おいで、エル。」
席を立って、勝利からエルを受け取る。
慣れた手つきでエルをあやすと、またもや有利たちから驚きの声が漏れた。
「薫もなれてるんだなぁ。」
「まぁね〜。」
エルの可愛さに気をとられつつ、薫は微笑む。
「ゆーちゃんもこれくらいの頃は、本当に可愛かったのに。
今じゃすっかり生意気になって〜。」
勝利はすでに上機嫌で、エルに話しかけた。
「そうなの?有利の昔の写真とかみたいなぁ。」
「そうかそうか、薫も興味があるのか。
今度、俺の家に来るといい。」
勝利は、自慢げにそういった。
「本当に?ありがとう。」
「気にするな。
あぁ〜薫の子どもの頃もきっと、天子のように可愛いいんだろうな〜。」
「ええ!?いや、そんなことはないけど。」
「おい!勝利!どさくさにまぎれて何を言ってんだよ。」
思わず照れた薫を見て、有利が言った。
「まぁまぁ…。」
「しかし、本当にお二人ともお上手ですね。」
フユーブもうれしそうに、微笑んだ。
「まるで、あなた方の子どもにも見える。」
「「「ぶっ。」」」
勝利以外がふいた。
いや、茶を飲んではいなかったから、
実際には、吹いてはいないので、コケタという表現の方があっているかもしれない。
「おいおい、父親がなに言ってるんだよ!」
慌てて、有利は言い返した。
「私は家を空けていることが多いですから。
そのうち、エルに顔を忘れられてしまうのではないかと、心配です。」
「また、仕事なの?」
「ええ。」
有利の問いに、ヒューブはにこやかに返した。
その表情は、本当に幸せそうだった。
薫は少し、胸が締め付けられたような気がした。
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