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とりあえず、ニコラ達に服やタオルを借りた。
木にかけた衣類からは、未だに水の雫が落ちている。
ちゃっかり、美子の花飾りも干されていた。
有利が頭をふきながら言う。
「いや〜、助かったよ。
ところでここはどこなのかな?」
「わがグリーセラ家の領土です。」
「じゃあ、眞魔国国内なんだね。良かった〜。」
有利は安心したように一息つき、
「私達は、この森の向こうにお散歩に行った帰りだったんです。
今日はエルが外に出たがったもので…。」
と、ニコラがエルを見て微笑んだ。
「エルが?」
有利も驚いて、エルを見る。
「そういえば、ここに来る途中、赤ちゃんの声が聞こえた気がしたんだけど…。」
「もしかしたら、彼が僕達をここに呼んでくれたのかな…?」
村田がエルを興味ありげにみる。
「え?そんなことできるの?」
「とにかく、すぐに白鳩便で血盟上に知らせを送ります。
しかし、城からの迎えが到着するまで少々時間がかかるでしょう。
夜に移動するのは危険ですし、今晩はこちらでお待ちいただいたほうがよろしいでしょう。」
「くしゅんっ。」
不意に、薫がくしゃみをした。
「大丈夫?」
「ん…ごめん。」
村田が心配そうに顔を覗き込んできた。
そこでニコラが微笑んで言った。
「お迎えが来るまでの間は、私達の家でお休みください。
たいしたおもてなしはできませんが…。」
「それじゃあ、御言葉に甘えさせてもらおっかな。」
「どうぞ、ご遠慮なく…!
ところで……」
言葉を途中で止めて、ニコラは勝利と薫をみた。
「あぁ!ニコラは、勝利と薫とは初めてだっけ?」
「陛下の兄君ですね、そして地球の次期魔王でいらっしゃる。
もう一方は、陛下の騎士だと思われますが…。」
ヒューブが淡々といい、村田はあっと思いだした。
「そういえば、グリーセラ卿は渋谷のお兄さんと会ったことあるんだよね?
薫のことはどこで?」
「はい。しかし、正式にはご挨拶しておりません。
騎士殿は、現在の眞魔国内ではそれなりに名が通っているので、
よくお噂などを耳にいたします…。」
(そんなにうわさが立ってるの…)
薫は、噂の内容が少々気になった。
有利は、にこやかに微笑を浮かべた。
「ぁぁ、そうなんだ。
まぁ、勝利のときは、なんだか大変なときだったしね。
改めて紹介するよ。
勝利、薫。
こちらは、グローセラ卿ゲーゲンヒューバーと、
その奥さんのニコラだ。」
「よろしく。」
「よろしくお願いします。」
薫は、なんとなく勝利の表情がかたいのが気になっていた。
「この子は、息子のエルンストです。」
「皆、エルって呼ぶけどね。」
有利が言うと、エルがどこかうれしげにきゃっきゃっと騒ぎ、
ニコラの腕の中で暴れた。
「こら、暴れないでってば。」
ニコラがあやすように、エルを宥める。
「本当に、やんちゃな子で困ってるんです。」
ニコラは困ったように、勝利と薫をみた。
「可愛いね。」
薫が、勝利に向かって言うと、
勝利のかおが一気に、面白いぐらいに緩んだ。
グヴェンダルといい勝負である。
それから、一同は、ニコラ達の家に向かった。
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