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それから、何事もなく日々が過ぎたある休日、
有利がリビングの扉を開けた瞬間、
「うおっ!?」
有利の叫びが響いた。
美子はリビングで、何かの衣装を合わせているらしく、
リビング中、衣装が散乱している。
「ママでしょ、ゆーちゃん。」
しかし、勿論美子は全く、気にしていない様子だ。
「何やってんの?
親父まで?」
気づけば、勝馬まで、着物を着ている。
新聞を読みながら、困った表情で有利をみた。
「なんなの?その格好?」
「嫁さんのこーディネイトだよ…。」
その声は、かなりげんなりしていた。
かわって、美子は上機嫌。
「明日、結婚式なのよ。
私のいとこの娘さんの!」
その答えに、有利が半ば棒読みっぽく
肩を落として答えた。
「ああ、そういや言ってたね。
確か、お相手が大企業の御曹司だとか何とか…。」
「そうなの!
披露宴は超高級ホテルで、超豪華なパーティーよ!
お料理もすっごく贅沢らしいの!
んふふ〜楽しみ〜。
これは衣装も手を抜くわけにはいかないわよね〜!
明日は大安だし、天気もよさそうだし♪
絶好の結婚式日和よ。」
そういいながら、またもあれやこれやと衣装を漁る美子。
美子は本気だ。
そこへ、新たな人物が…。
「なんだこれは…。」
渋谷家長男こと、勝利である。
「ああ、しょーちゃん。どれがいい?」
美子に聞かれた勝利は、部屋を見回し、
食器棚にかけられた紫のドレスを指さした。
「あれがいいんじゃないのか。
この中で肌の露出が一番少なそうだ。」
「はぁ、やっぱり息子はつまらないわ…。
こんなとき、女の子だったら一緒に選んだりしてくれるんだろうな…。」
美子がため息をついた…そんな瞬間だ。
ピンポーン、とドアのインターホンがなる。
「お、来たか…。」
有利は、つぶやく。
そう、現れたのは、私服姿の村田と薫。
「どーも。」
愛想のいい笑いを振りまく村田。
「お邪魔します。」
かわって、遠慮しがちに微笑む薫。
特に、薫はだいたい、
いつも制服か着物が普段着だったりするので、
洋服としての私服は珍しい。
「いらっしゃい、健ちゃん。
薫ちゃんまで!!いいところにっ!」
美子は両手を合わせて微笑んだ。
「え?」
薫は、着飾った美子に満面の笑みで迎えられ、
少々戸惑った。
「あ、これから眞魔国にいくのね?」
「はい、ところでママさんどうしたんですか?
これからパーティーでも?」
さりげなく、美子が触れて欲しい話題へ摩り替えた村田。
さすがというべきか。
美子はうれしげにいう。
「うふっ、久々に着てみたの!どうかしら?」
そして、その場で一回転。
「素敵です!
色も季節感ばっちり!
ドレスと髪飾りのバランスも絶妙だし、
ママさんによく似合っていますよ。」
(…うわぁ)
薫はその場で、村田の切り返しのすごさに驚嘆した。
「そう?やっぱり?」
そういって、上機嫌に美子は笑った。
「ね、薫ちゃんにも似合いそうなドレスがあるのよ!
一緒に着てみない?」
「えっと〜。」
うれしい反面、かなり恥ずかしい。
(ドレスなんて似合うのかな)
そんな不安も胸をよぎる。
「ね、着ましょう?」
美子がなおも説得していると、
リビングから勝利と勝馬が現れた。
「やぁ、いらっしゃい。」
「また、来たのか。弟のお友達!
薫!!よくきたなっ!おにーちゃんは嬉しいぞっ!」
「ええ、勿論来ますよ。渋谷のお兄さん。」
村田は、勝利に屈せず、いつもの調子で言った。
軽く冷戦だ。
一方、薫は
勝利の前半と後半の、言葉に差がありすぎて
なんとなくあいまいに微笑んだ。
「あはは…ありがと、勝利。」
「じゃ、行こうか。」
有利が言って、ぞろぞろと風呂場ヘ向かう。
「がんばれよー!」
「皆によろしくねー!」
勝馬と美子が応援する中、
勝利のめがねがきらりと光った事に誰も気づいていなかった。
そのまま、有利は手を振り
「じゃあ、行ってくるね。」
といって、風呂へ突っ込んだ。
続いて、村田と薫も風呂へ突っ込む。
そして、
……まさかの勝利まで一緒に風呂に突っ込んでしまった。
「まぁ!しょーちゃん、ずるい!
私も!!」
美子もあわてて、飛び込もうとする。
「やめなさいって!!」
「一緒に行くわよ!もうっ!!」
暴れる美子をあわててとめる勝馬。
ふいに、美子のつけていた髪飾りが落ち、
風呂の水に浮かんでから、吸い込まれた。
――それはやがて、眞魔国へ。
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