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「馬っ!?」


一瞬、言われたことがわからずに薫は遅れて叫んだ。

「あぁ、そうか。乗ったことない?」

ヨザックに聞かれ、コクリと頷く。

「大丈夫。俺につかまってれば良いから」

コンラッドはそんな風に爽やか笑顔でサラリといってのけた。

薫は自分の頬が紅潮したのを感じて、さりげなく顔を伏せた。

「その刀は、城まで私が預かりますよ。
馬にも乗りにくいしねぇ」

ヨザックが言うと、薫はちょっと躊躇ってから、ソレをヨザックに渡した。

刃が剥き出しだった刀を布か何かに丁寧に包んで、

「ちゃんとあとで返すから」

そう念を押すヨザックは興味津々に刀について話し出した。

「それにしても、変わった刀だなぁ〜。
コレって、坊っちゃんの世界の刀なんですかねぇ」

「あぁ、日本刀だよ。俺もはじめてみた。
因みに薫が着てるのは袴だよね?」

「良く知ってるね。
コンラッドって日本マニア?」

「いや、行ったことがあるだけだよ」



コンラッドは苦笑した。

「それじゃあ、薫は日本って国の女の子の代表!って感じ?」

「はぁ…まぁ、多分」

とりあえず曖昧に肯定しておいた。


とはいえヨザックは、本気で感心しているらしく、アーダルベルトと同じような視線で薫を見ている。

「でも、坊っちゃん喜びそうだよなぁ。
自分と同い年の女の子が来るなんて」

「同い年!?陛下って人は同い年なの!?」

今度は薫がヨザックの言葉にくいついた。

「因みに陛下の大賢者の貎下も日本人だよ」

二人も日本人がいることは喜ばしい、だが高い位だからこそ苦手なタイプかも、と薫は思った。

それを勘づいてか、

「大丈夫。陛下は気さくな方だから」

とコンラッドが安心させるように笑った。

「坊っちゃんは気さく通り越してお人好し過ぎな気もしますがねぇ」

ヨザックもコンラッドに賛成のようだ。

「あれ?そういえば、閣下って?」「陛下の婚約者」

「婚約者!?」

(魔王って大変だな…)

その後も馬に乗って、いろいろな話をした。

魔王陛下がモテモテらしいこと。
魔族と人間はいろいろと違うこと……。

コンラッドは先代魔王と人間とハーフのことなど。

得た情報は数えきれない。

だいぶ話もすんで打ち解けた頃、血盟城についた。

どうやら陛下と貎下は先について、広間にいるらしい。

城の中を歩きながら、道行く人が薫を振り返る。

これも、見慣れない服装と双黒のせいだろう。

コンラッドとヨザックに教えて貰った魔族の常識は、にわかには信じ難かったが、どうやら本当らしい。

(でも、双黒なんて日本に沢山いるじゃない?)

ソレを知ってか教えてくれたコンラッド本人と目が合うと、苦笑いを浮かべていた。

「――…ここだよ。」


コンラッドとヨザックが、不意にある一室の前で止まった。

通りすぎようとした薫も慌てて止まる。

コンコンと合図をして、ガチャリとドアノブに手をかけて扉を開ける。

「陛下、お久しぶりです」

「コンラッド。
遅かったじゃん!?」

学ラン姿の少年が見えた。

アレが陛下だろう、と薫は思った。

ばっと見、薫の苦手なタイプの男の子ではないようなので安心した。

「無駄足で残念だったな。まさか占いが外れるとは…」

勝ち誇ったような笑みで金髪美少年がソプラノトーンで言うと、ヨザックがそこへ介入した。

「そうでもなかったですよぉ〜」
そう言って後ろに隠れるようにしていた薫を突きだした。

瞬間、広間がシーンとする。

(あぁ、なんかすごい見られてる)

刺すような視線が薫に集まる。

だが、それと同時に扉から見慣れた人物が現れた。

「ウルリーケと話をして来たよ。
占いが間違ってたワケじゃないみたいなんだよね。
眞王のイタズラかなぁ?」

「貎下!?」

口々に広間の人々が言う中で

「村田君!?」

一際大きな高い声が響く。


「あれ?薫?」

つかつかと歩みより、まじまじと見つめあう二人。

クラスメートの村田は、何かと薫に友好的な少年だった。

が、薫はあまりにも親しげにしてくる村田を苦手意識していた。

しかし今は、藁にもすがる思い。
知り合いがいるだけで不思議と心強かった。

「なんでここに?」

「それはこっちの台詞だよ。あれ?どうしたの?その格好?」

「剣道の練習中だったから」

「そっか、剣道部だったっけ?」
「意外、知ってたんだ」

「だって君、校内じゃ有名じゃない?」

「そうなの?」


「――…待て待て待て!」


二人で会話をしていると、魔王陛下と呼ばれる少年が割って入ってきた。

「村田、知り合いなのか!?
だったら先に紹介しろよ、ワケわかんねーじゃん。
皆、固まってるし。」

まくし立てる魔王に村田はため息をついた。

「彼女は、僕のクラスメートで、友達だよ。
なんでこっちに来てるかはわからないけどね。 」

(友達というほどの馴れ合いでもなかったような…?)

しかし、場が悪そうなので薫は黙っていた。

村田が、大丈夫というように軽く薫に目配せした。

薫はそれを心強く感じた。

「クラスメート?」

魔王陛下は目を丸くして薫を見た。


「うん。クラスメート」


村田はもう一度繰り返した。

「貎下、『くらすめぃと』とは何のことでございますか?」

さらりとしなやかな髪を靡かせた美形な誰かが説明を請う。

「彼女とは、向こうの世界の同じ学校に通って、同じクラスで勉強してるんだよ。」

「貎下のご学友ですか?」
「うーん、まぁそういうことだね。」

そこで皆、納得したようだった。
「あぁ、俺、渋谷有利。宜しく。」

「ぁ、幸村薫です。
渋谷君って魔王なの?」

「うーん、まぁ一応。
あぁ、有利でいいよ。堅苦しいのは苦手なんだ。」

「そう?ありがとう。」


軽く微笑むと有利も満面の笑顔を返してくれた。

「いや、でもマジで嬉しいよ。
ぁ―こんな子が村田のクラスメートなんて、羨ましい。」

が、この言葉がある人物の火種となった。


「こら、ユーリ。いつまでその女と話しているつもりだ!
きさまには、僕という婚約者がいるだろう!?」


(あれ?今婚約者って言った?)

薫は思わず我が耳を疑った。

後ろに控えていた金髪の美少年がずかずかと有利と薫の間に割って入る。

「だって、俺たち男同士じゃん。」

「関係ない!」

「いや、大アリだって。」

「じゃあ、お前は、僕とこの女だったらこの女をとるのか!?」

「性別的にはしょうがないだろ。」

痴話喧嘩のような会話を繰り広げた金髪の美声年は、急に広間の机のナイフやらフォークやらを落とした。

「ちょっと、危ないじゃない?」
いい加減、呆れた薫がそれを拾う。

「あぁ!拾っちゃダメ!」

有利の言葉も、すでに遅い。

既にナイフを拾ってしまった後だった。

「ふんっ、明日貴様をコテンパンにしてやるっ!」

金髪の美声年は怒ったまま出ていった。

呆気に取られた薫は訳がわからず有利を見る。

「何?今の?」


有利は、複雑な表情をしていた。



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