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(どうして…?)
何故か戻り損ねた。
大きな力が作用しているのはわかった。
眞王の気まぐれだと信じたい。
「…はぁ、」
ため息をついて、風呂場を出た。
「あらあら?どうしたの?」
美子が洗濯機を回していた。
「えっと、なんか私だけ戻りそこなっちゃって。」
「そうなの?」
「なんでかわからないんですけど。」
「う〜ん、そうねぇ。いつ帰ってくるかもわからないし、
とりあえず家で待機する?」
「はい、お願いします。」
と言うも、服は当然びしょぬれで…。
「あ、私の服、貸してあげるわね!」
まらあのフリフリを着るのかと思うと、
ちょっと憂鬱になった。
勿論、美子は可愛い!を連発してやまなかったし、
勝利も赤面しながら、『良し』と顔が語っていた。
「ただいま〜。」
「あら、馬ちゃんだわ。」
「馬ちゃん?」
「親父だ。」
そういえば、まだ渋谷家父にはあったことがなかった。
(もう、そんな時間なのか…)
薫は、勝馬に挨拶をして帰ろうと思った。
とりあえず、リビングで顔合わせ。
「こんばんは。お邪魔してます。」
「ああ、キミが幸村薫だね。
勝利や有利や、嫁さんが良く話してくれるよ。」
要は皆、薫のことを話しているらしい。
ちょっと照れくさかった。
「じゃあ、私はこれで…。」
「え?帰っちゃうの?
とまっていけばいいじゃない?」
美子は、期待の瞳で薫をみる。
「いえ…、さすがにそれは…。」
「ゆーちゃんの部屋が空いてるんだし、
私の部屋でもいいわよ?」
すでに泊まることになりかけている。
助けを求めるように、勝利を見たが、
「どうせ、今は一人暮らしなんだろう?
泊まっていけ。」
と言われてしまった。
「う…まぁ。」
うれしい事にかわりはない。
そのまま、流れで泊まることになってしまった。
勿論、夕食も渋谷家。
薫は、有利の席に座った。
とても、暖かい空気だった。
本当の家族のようで、その時間がとても幸せだった。
「薫ちゃんって、一人暮らしなの?」
「はい、まぁ。」
「お食事は?お洗濯は?お掃除は?」
「だいたいは、自分で。週に何度か、ヘルパーさんが来ますけど。」
「まぁ!!そうなの!!
もう、お嫁修行はばっちりね!」
(…そういうもの?)
薫は苦笑いした。
食事が終わって、
薫は、有利の部屋を借りることになった。
「暇だったら、俺の部屋に来い。」
とも、勝利に言われたので、
遠慮せずに行くことにした。
「勝利、入るわよ。」
「ああ、」
勝利は、パソコンに向かっていた。
いつもはぎゃるげーをやっている勝利だが、
今は大学のレポートか何かやっていたようだ。
それにしても、タイピングが早い。
「すごいね、勝利。
私、パソコンってちょっと苦手かも。」
勝利のベッドの上に腰を下ろして言った。
「まぁ、ある程度やってるからな。」
「ギャルゲーを?」
「あぁ…いやいや、違う!
レポートとかグラフとか、ちゃんとやってるから!」
「わかってるって…。」
(そんなにあわてなくても…)
薫は、微笑みながら勝利を見た。
本当の兄弟とは、こんなものだろうか。
とても、居心地がいい。
「でも、なんで私だけ戻れなかったのかな?」
「さぁな、眞魔国に眞王が嫌いな、イケメン男が現れたとか?」
「は?」
「いや、眞王はお前を溺愛してるって話だったからな。
まぁ、俺には劣るがなっ!
やっぱり、気に入らないんじゃないのか。
とりあえず顔がいい男が、あんなにいるのが。」
勝利の言葉には、ちょっととげがあった。
少なからず、勝利も同意見と言うことだろう。
「そういうものかなぁ?」
薫は首をかしげた。
薫には、眞王が過保護すぎると感じられるぐらいなのだ。
「全く…そういう話にはとことん鈍いな。」
「悪かったわね、ねぇ、勝利は眞魔国に行ったことあるの?」
「まぁ、一応な。魔王の兄として。」
そういう勝利はどこか不満そうだ。
「ふ〜ん、そっか。
じゃあ、皆にもあったことあるんだ。」
「どいつもこいつもいけ好かない!」
勝利が急に、力説し始めるので薫は半ば驚きながら聞いていた。
そのあとは、眞魔国の美意識とかについて、話をしたりした。
久しぶりに薫は夜更かしをして、
気づけば薫は夢の中…。
もともと、健康生活を送っていたので、早寝早起きだったのだ。
「だから、俺はいつか妹の…あれ?」
力んで話していた勝利も、薫が眠りに落ちたことに気づいた。
(全く…まさか、眞魔国でもこんなことしてないよな?)
そんな心配をしながら、勝利は薫に布団をかけた。
姫様抱っこでもして、有利の部屋に運んでもいいのだが、
なんとなくもったいない気もした。
(しょうがない…、今日は床で寝るか。)
――無防備すぎるその寝顔に、微笑を…。
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