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「大丈夫か?」


「…え?」


耳を疑った。


思わず、目を見開いた薫の反応に、相手は満足げにニヤリと笑った。

「言葉が通じるようになったか?」


言われてから気付いた。


周りの群衆が何を言っているかも、全て聞き取れる。


「は…はぁ」


しかし状況は相変わらず理解できない。

覇気のない返事を返す薫をじろじろと見ながら、相手は語り続けた。

「しかし、アイツみたいなヤツがまた現れるとはな…」


「アイツ?」


「いや、こっちの話だ。だが、お前は、なかなか見込みがありそうだな。変わった剣持ってるし、その服も見慣れないな」


わけのわからない内容の話を連呼され、薫はただ曖昧な受け答えをしながらそれらを受け流していた。


薫の服装は家の部屋着の袴、確かにメルヘンチックなコスプレの中には溶け合わない。

だが、それすらも相手は気に入っているようだった。

とりあえず、嫌われてはいないらしい。


「おっと、自己紹介が遅れたな。俺は、アーダルベルトだ」


「幸村薫です。――…助けてくれたんですよね?」


薫は、確認のように半信半疑で聞いてみる。

アーダルベルトは特に気にもしない様子でさらりと答えた。


「まぁな。あのボウズの時とは違って、お前はウケが良いみたいだからな」

「どういう意味ですか?」

アーダルベルトに目で指図されて、周りを見た。

何故か人々が感謝の意で薫を見ている。

首を傾げた薫にアーダルベルトは頼もしげに説明を始めた。

「お前さんが、ここら辺を荒らしてる面倒な盗賊を倒したところをそこの村人達が見てて、お礼を言おうとしたら逃げるから、慌てて追いかけたんだってよ。

だが、通りに出ればこの騒ぎだ。収集つかないことを知って、俺を呼びにきたんだよ。

まぁ、人情はある良い奴らだから、今は皆お前を英雄みたいに思ってんだろ。

俺もわざわざ盗賊やっつけに此処まで来たが、お前に先にやられちまうとはな…」

そこまで言ってアーダルベルトは、薫の頭をぽんぽん叩いた。


それから、声色を変えてこう言ったのだ。

「だが、お前はやっぱり魔族なのか?」


と。

急に変わったアーダルベルトの目付きと、聞きなれない言葉に薫は首をひねった。

「魔族?」


「なんだ、やっぱり知らないのか」


ため息混じりの呆れた声。


(なんか、バカにされてる…?)

薫が返答に困っていると、

「アーダルベルトッ!」


馬のいななきと共に颯爽と、数人の男達が現れた。




「ほら、行け」


と、アーダルベルトに肩を押された。

「お前なら大丈夫だろう。
アイツの下で剣の鍛錬させた後も楽しみだしな」


そう言うと、アーダルベルトは村人達に声をかけて去っていく。


(いきなり置いてくの!?)


「待ってよ、アーダルベルト!」

叫んだが、アーダルベルトは


「じゃあな、カオル」


と言って、村人の群衆に紛れていった。


(名前…ちゃんと呼んでくれた)

そんなことにほっと胸を撫で下ろすと、入れ違いのように馬とともに十数名の人々が薫の目の前で止まった。


「陛下でも、貎下でもないですね。どうします?隊長?」


馬を降りた、オレンジ色の髪のアーダルベルト並みに立派な体格の人が問う。

隊長と呼ばれた人は、


「とりあえず、話を聞こう。」

とだけ言った。


(うわ、美形…)


あまり男というものにさほど興味がなかった薫だが、一般人では勿体無い感じがした。

彼は馬を降りると、薫に一礼した。


「俺はウェラー卿、コンラートと言います。

こっちは、ヨザック」


「…私は幸村薫です」


「あれまぁ、女の子?
それにしても剣なんか持って物騒じゃない?」


ヨザックが不意に気付いて言う。

「え〜と、祖父に昔貰った木刀を割られたら、中がこんな感じになってて…。

正直、驚いてるんですけど」


ありのままを必死に話すが、相手は二人とも半信半疑だ。


(陛下を暗殺しにきたのか?)


二人の中にはそんな疑惑があったから。


「どうして、ここに?」


「いや、気づいたらその辺りの森にいて…。
さっき、アーダルベルトって人に助けられて、やっと言葉もわかるようになって…」


「「!?」」


二人の顔に驚愕の表情が現れ、先ほどの疑いが疑わしいものになった。


「陛下と同じケースみたいだな」

「ですね」


二人は苦笑いしながら、目配せをした。

その後、確認のために彼らからいくつか質問を受けた。

日本や薫がいた世界のこと。


何より薫の来ていた部屋着兼練習着の袴が決め手だった。

質疑応答を終え、薫疑いが無事晴れた。

「ええと、コンラートさん?」

「コンラッドでいいですよ。

それにさん付けとか、敬語もしなくて良いですから…」


態度が柔らかいことにホッとしながら薫は質問した。


しかし、年上の敬語ってむずかゆい。

「私も出来ればくだけて話してもらった方が話しやすいかも」


「そう?じゃあそうするよ」


コンラッドは爽やかな笑顔を浮かべた。


「…ここはどこ?それに、陛下って?」


今度は薫が質問した。


コンラッドは優しげな声で言葉を返す。

「ついてくればわかりますよ。
ただ1つ、言えることはここは日本ではない別の次元の国ってことです」

(別の次元…)

言われた瞬間、薫は気が遠くなりそうだった。

「詳しい説明は向こうについてからするから。
大丈夫。私達はあなたの味方だから。
とりあえず、俺の馬に乗って下さい」

今までになく柔らかい笑顔でそう言った。

ヨザックも最初見たときより顔が緩い気がする。



あきゅろす。
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