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一方、薫が意識を手放したころの眞魔国。

ウルリーケの話を聞いたヴォルフラムとギュンターとグヴェンダル、コンラッドとヨザックが兵を引き連れ、城をでるところである。

ウルリーケの話によると、『双黒の魔族が、眞魔国の地に現れる』らしい。
しかしその現れるであろう場所は全く正反対なのだ。


どちらかが有利で、どちらかが村田だと踏んだ家臣達は二手に分かれて、捜索兼出迎えをすることになったのだ。


一方は、かなり国境に近いところなので、コンラッドとヨザックが。

そして、もう一方を、ヴォルフラムとギュンターとグウェンダルが向かう。

本来なら、城の警備にあたるグウェンダルも、事情が事情なだけに、ヴォルフラムとギュンターだけでは不安な為、同伴することになった。

特にこのペアは『陛下への愛が試されている!』だの、人一倍張り切っているので余計危険だった。


そんなわけで、出発した眞魔国一行…。


まさか『村田ではない、双黒』が現れるなど、誰が予想出来たであろうか…。










「どこ、ここ?」


静寂すぎる森と川。

その殺風景な中で薫は思わず声を発した。

薫は森の麓の川岸に打ち上げられていた。

服は微妙に湿っている…池からそのまま此処まで来たのだろうか。
(ありえない)

池の水に引っ張られるように落ちたところまでしか、記憶がない。
頭を抱えて大きなため息を一つついたが、余計に孤独感を感じただけだった。

不意にコツンと手に触れた無機質な愛用の木刀。

思わず掴んで持ってきてしまったらしい。

池で見た石も何処へやら、見慣れない景色から、ここが日本かどうかも不安だった。


何故なら、遠くに往来する人々の服が、まるでコスプレのようだったからだ。

(どこかの撮影会か何か…)

と思って、とりあえず人々が見える辺りまで駆けていく。

「っ!」

すると、途中で後ろから声をかけられた。

見るからに柄の悪そうな輩が十人ほど。

しかも、彼らの話している言語が全く理解できない。

(そういう役なのかなぁ)

しかし、そんなことを思っていると、突然相手の一人がつかみかかってきた。

「何っ!?」

思わず条件反射的に、木刀でうち伏せる。


その瞬時の対応に一歩のけ反った彼らだったが、やがて、二人目、三人目と襲いかかってきた。

薫は、意図も容易くソレをうち伏せた。


やがて、5人ほどになった彼らは剣を抜いて、目をつり上げて向かってくる。

しかし、祖父の訓練には程遠い適当に剣を振り回した彼らを、薫はうち伏せた。


「案外、弱いのね」

ほっと一息つき、薫は早々にその場所を去った。


(何かがおかしい…)

身体を駆け巡る本能がそう、告げていた。

だが、どうしようもない薫は、とりあえず人々が往来している通りまで 降りていった。


が、しかし、薫を見るや否や、往来行き交う人々は我先にと逃げ惑い始めた。


中には、薫に石やパン、手元にあるものを手当たり次第投げつけてくる人々もいる。


ただ、相変わらず言葉は理解出来ない。

薫を歓迎していないことは、

人々の怯えたような、怒ったような表情から読み取れた。


声をかけようとしても、肩をつかんで引き留めただけで、ヒッと息をのまれて逃げられてしまう。


そんな中、薫に向かってくる、村人らしき婦人らに混じったマッチョな男。


明らかに出来そうな体系と面立ちの彼が、勿体振りながらむかってくる。

薫は思わず身構え、木刀を持つ手にギュッと力を込めた。


(まだ、死ねない)

薫の脳裏に、祖父の言葉が蘇る。

『お前は立派な騎士になれる』

そう、祖父はいって亡くなった。

―まだ何もしていないのに、死ねない。


大きく深呼吸をし、キッと瞳を見開いた。

薫は、覚悟を決め、その場に静かに佇む。

やがて村人達をなだめ、一人薫の前に立ち塞がる彼に、先制攻撃を仕掛けた。


相手は驚いたように薫を見たが、すぐに剣を構え、ニヤリと笑った。


相手は真剣、こちらは木刀。


不利なのはわかっていたが、それでも薫は向かっていった。


ただ、祖父の言葉だけを胸に秘めて、一心に刀を振るう。


しかし、さすがに大の大人の強力な力が加えられた刀を受け止めるには、木刀は不十分だった。


なるべく、小回りをしながら相手をつつくように攻撃をしかけたが、

ピシッと木が割れる音が何度もした。


そして、ついに…


―パキッ


という無機質な、軽い音がした。


瞬間、祖父に貰った木刀が割れた、と思った。


だが、驚くべきことに木刀の中に真剣が仕込まれていた。


木刀の部分は鞘だったのだ。


そして、陽に眩しく光る日本刀が現れた。

(ありがとう)


亡き祖父に心から礼をして、また相手へ向かう。


(これなら、いける…)


そう、薫は思った。

相手は面倒くさそうに何かを決した瞳で対峙してきた。


暫し斬りあい、刀を交えたあとで、突然相手は片手で剣を構え、片手を薫の額に当てた。


(…何!?)

咄嗟のこと故に防げなかった薫は、もろにソレを受けた。

何かの術式らしきソレを受けたせいか、激しい頭痛に襲われ、倒れそうになった身体を、地面に刀を差してかろうじて支える。


…何かを思い出せと、本能が身体中をざわつかせ、血がたぎる。

知らない景色や人物が垣間見え、映像を巻き戻して見ているかのように、膨大な何かが頭を埋め尽くそうとする。

しかし、相反する理性がそれを押し止めた。


ふいに相手が、額から手を離した。

すると、身体中からどっと汗があふれた。

身体がだるくなり、荒くなった息を整え、目の前の相手を見据える。



もう、刀を構える気力も体力も出てこない。


(…こんなところで)


薫の胸の内に、悔しさだけが胸に広がる。

自分の体なのに、どうしたことか、まるで言うことを聞かない。

そんな困惑気味の薫に、目の前の相手は意外な言葉をかけた。


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