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「今日はいろいろありがとう。わざわざ送ってもらっちゃって…」
「いや、気にするな。俺も楽しかったしな」
並んで歩きながら話す二人、車道側を歩くのは勝利だ。
あまり女の子扱いを受けない薫なので、何処かむずかゆい。
「私も今日は凄く楽しかったなぁ。家族って良いね!」
大きく伸びをしながら薫は言う。
「薫の家族はどんな家族なんだ?」
勝利が聞くと薫は肩を落として、呟く。
「知らないの」
「は?」
「両親は幼い頃に亡くなって、お爺ちゃんに育ててもらってたの。でも、お爺ちゃんも半年前に…。
親戚は私のこと毛嫌いしてるからなんとも言えないしね。だから、今は一人暮らし。
なかなか快適よ。家自体はお爺ちゃんと過ごしてたままだから、広いし。
ヘルパーさんも入ってくれてるし」
なるべく明るく振る舞ってみるものの勝利の表情は複雑そうに歪んだ。
「そうか。」
「そんな顔しないでよ。私、今は幸せだから。眞魔国の皆に会えたし、勝利や美子さんも凄く良い人だし」
薫は今までは心の何処かで自分の不幸さを呪って他人を羨んでいた気がしていた。
(しかし、今は違う)
――――皆がいる。
『信頼関係』というもの程、大きな財産はないと薫は思える。
「…勝利?」
勝利は黙り込んだままだ。
やがて、おもむろに口を開く。
「俺は地球の魔王になるつもりだ」
「うん、知ってる」
「は!?何故、知ってるんだ?」
「今日、村田君に聞いた」
(くそっ、弟のお友達め!)
せっかくの切り出しが台無しだ。
しかし、気持ちを新たに咳払いしてから、勝利は続けた。
「今まではただ有利の為にと思っていた。だが、今は違う。
薫の為にも頑張ろうと思う」
勝利の口調は真剣だ。
「今はまだまだだが、きっとなる。
薫のためにもな」
「うん、ありがとう。勝利」
不思議と素直に言葉が出た。
「いや、礼なんかいらない。
代わりにいつでも渋谷家に来てくれ。
歓迎するから。薫は俺の妹同然だからな」
「うん、行くわ」
「…そして、 いつか俺をおにーちゃんと呼んでくれ」
最後の台詞で台無しだ。
思わずずっこけそうになりながら、可笑しくて薫は笑った。
「何がおかしい?」
勝利は訝しげに眉を潜めた。
「なんでもないわ。私の家、此処なの。送ってくれてありがとう」
薫は先に駆け出し、とある日本式の一軒家の前で止まった。
「そうか、じゃあな」
「うん、本当にありがとう。
……おにーちゃん」
「……え?」
勝利が薫に聞き返した時には、薫がすでに家の扉へ向かって全力疾走していた。
勝利は顔を赤くしながら、その場に立ち尽くし、手で顔を押さえた。
顔が暑いのが自分でも分かった。
(たまには二次元じゃなくて、三次元も良いな…)
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