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それからは、薫も今まで以上に、

積極的に人に話しかけ、交流するようになった。

グウェンダルの幼なじみだというアニシナにも会った。

アニシナは、薫のことを多少なりとも知っていたらしく、

会うや否や、女性とはどうあるべきか等を説かれた。

グレタ曰く、薫はアニシナに気に入られている、

らしいが、それは薫が女性尚且つ『騎士』であり、能力にも長けているからであろう。

グウェンダルの計らいでようやく、刀の鞘も出来て、持ち運びもずっと便利になった。

薫の記憶か何かのおかげで、眞魔国の文字を読める薫は時々、ギュンターの講義を受けることもあった。

又、乗馬の練習に、グレタとのお菓子作り、刀の鍛錬など、

毎日が大忙しだった。

あっという間の1週間。

ふと薫は思い出した。

「中間考査…。」

1週間前の夕食で村田とコンラッドと会話した記憶が新しい。

きっかけはギュンターだった。

自分をより良く知るためと言い、

有利とは違い、意欲的な薫を前に、
ギュンターの眞魔国に関する授業もとい講義なるものは、
あたかも学校と同じく日々のスケジュールの中に組まれていた。

一応眞魔国の文字も書けたので、
面倒ながらもその文字でノートをとり(グヴェンダルから白紙の本をもらった)、

つい先ほどだ。

「さすがは、騎士で在らせられるだけはありますね!

こんな短時間でここまで進むなんて!」

ギュンターは感激のあまり、今しがた終わった範囲をパラパラ捲りながら感嘆する。

「せっかくですから、どれくらい覚えたか試してみましょう。

貴方のことですから、恐らく大丈夫だとは思いますけれどね。」

(つまりはテストってことね。

テスト…?

あれ、そういえば中間考査は?)

という流れだ。

「ねぇ、ギュンター。」

「はい?」

「どうやったら帰れるのかな?」

「恐らく騎士の力を持ってすれば、時空移動は容易なのではないかと…。」

「うーん、でもやり方とかいまいちわからないのよ。」

「そうですか。

猊下ならご存知なのではないでしょうか?」


(猊下…村田君かー)

未だにクラスメートがそんなに凄い存在だとは信じがたい。

村田も気にしないで、というから従来通りの付き合いだ。

いや、クラスメートから友達には昇格した気がする。

正直、村田とはあまり話したことはなかったからだ。

「ん、そっか…。

じゃあちょっと村田君のとこに行ってくる。」

「は!?いや、しかし何故急に…?」

「向こうの世界でも、試験があるんだけどね。

時期的にそろそろなのよ。」

ちょっとうんざりしながら、薫は言った。

ギュンターは納得したようだ。

「そのことでしたか…。

ならば大丈夫ですよ。

眞魔国とあちらでは、時間差が生じますから、まだ試験の日付ではないでしょう。

一日も経っていないはずです。」

ギュンターの説明はやはり、分かりやすくて説得力がある。

というか、『説明』という動作がギュンターには似合う。

「なんだ、そうなの?」

「はい。言いそびれており、申し訳ありません。」

「謝らなくてもいいよ。

じゃあ、大丈夫なのね。」

ギュンターは再び頷き、薫は授業を再開。


やがてギュンター先生による試験が開始されようとした瞬間だ。

ガチャリ、という音と共に現れた魔王こと有利。

「あ。」

あからさまにまずそうな顔を浮かべる有利。

大方、勉強をサボっているからだろう。

ギュンターと顔をあわせるのはまずいと見える。

「陛下!やっといらして下さったのですね!」

「あぁ、いや、えっと…。」

有利は言い訳を必死に考えているようだ。

「有利、署名サイン終わったの?」

「とりあえずはね。

薫は何してたんだ?」

「ギュンターに眞魔国のこと、教えてもらってたんだよ。」

「あはは、勉強熱心だね。

俺にはムリだ…。」

若干ひきつったような笑みを浮かべている有利。

苦労と勉強嫌いが、垣間見えた瞬間だ。

「そのような事を仰ってはなりません。

魔王たる者、勉強はきちんとしていただかなくては…。」

きっぱりと言いながら、有利に駆け寄るギュンター。

しかし有利も後ずさる。

「じゃあ、俺は行くね。」

逃げるように扉を開けて、出ていく。

「何処へ行かれるのですか!?

陛下!陛下〜!」

ギュンターも負けじと本を片手に走って行ってしまった。

一人、残された薫。

廊下を走りながら叫ぶギュンターの声が遠くなっていく。

薫はため息をついて、ノート代わりの本を閉じた。

(テストはお預けかなぁ…。)

ちょっと残念だ。


外は夕暮れ。

こうして毎日が過ぎていくにつれ、

薫は眞魔国が好きになっていった。

暖かい人たちに囲まれ、

家族とは言わないがそれに近い何かを感じる。

地球での生活が嫌いだったわけではない。

だが、眞魔国の方が断然居心地が良かった。

ただ1つ、自分の記憶『騎士』を除いては…。


――――私は、何の為のここにいる?



――――何をすれば良い?



――――『騎士』って何?



『それは、お前が自分で見つけるべき答えだ。』



――――!?


(会話した?)


心で『声』である眞王に訴えた言葉が届いたのだろうか


『そう驚くな。

傷つくだろう。』


――――すみません。貴方が眞王?


『あぁ、やっと会話出来るようになったか。

退屈したぞ。』


―――――はぁ。


(退屈って何?

眞王はそんなに暇なのだろうか、

というか生きている、わけではないはず。)

怪訝な顔で薫は悩んだ。

『まぁ良い。お前が戻ってきてくれたからな。

俺の麗しき騎士よ。

お前に力を送りすぎたおかげで今は体を具現化できないがな。

まぁそれは良い、もうじき治るしな。』


恐らく村田が言っていたことだ。

やはり、眞王は薫に力を貸していたらしい。

―――――えっと、何か?


『用がなければ、話しかけてはいけないのか?

相変わらず冷たい…、まぁそんなところも可愛いがな。』


――――――……。


もっと偉大で聡明な何かを求めていた薫は一気にさめた。

夢での眞王以上に、今会話している眞王は
まさしく薫が一番苦手な部類の相手である。

『黙り込むな。

あいにく俺はお前を見れないんだからな。』

―――――何それ?

『俺は精神体になりながら、ずっと見てきたからな。

眞魔国を…。

残念ながら、お前は昔も今も霧がかって俺に見えない術式を施しているようだ。

力が発動する前はぎりぎり見えたが…。』

眞王の声は本気で残念そうだ。

舌打ちでもしそうな勢いである。

――――――見てたって、人とか?

『あぁ、なかなか面白いぞ。

お前になら、あやつらに秘密でいろいろ教えてやっても良いが?』

物好きな眞王のことだ。

相手の弱み握り放題で、楽しんでいるのだろう。

意地悪い。

――――――いえ、結構です。

きっぱりと薫は断った。

『やはりそう言うと思ったが、………残念だな。

お前の為にネタをかき集めておいたのに。』

――――――………。


呆れた。

もはや言葉もない。

『だから黙り込むなと言っているだろう。』


―――――――ぁ、ごめん。


『まぁ良い。

…お前はあちらの世界に一度戻りたいそうだな?』

急に眞王の話題が変わった。


―――――――ぇ、なんでそれを?


『先ほど、ギュンターが言っていただろう。

お前の直接の声が聞こえずともそれぐらいは察しがつく。』

―――――――意外と頭がまわるんだ。

失礼だとは思いながら、思わず言ってしまった。

しかし、眞王は怒った様子はなく、むしろ誇らしげだ。

『眞王だからな。

お前が帰りたいというなら今晩にでも帰してやろう…。』


―――――――ええ!?


いきなり急展開だ。


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