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有利は目の前の出来事に多少の戸惑いを感じていた。

有利の素晴らしき視力では、遠目から見ても分かっていたが、

まさかと思って、心中では否定した。

…薫の目が充血していた。

つい先程まで泣いていたであろう瞳は、

近くで見るとより一層ひどかった。

しかし、隣にいるのはコンラッドだけだ。

有利が認める『爽やか紳士』のコンラッドだ。

コンラッドが薫を泣かすなんてことは考えられなかった。

(いや、でもだからこそ見逃してちゃいけないよな。)

有利は意を決して、薫を見た。

「なんかあった?」

さりげなく聞いてみた。

「え?なんで?」

が、当の薫は、きょとんとしている。

「目、はれてるよ。」

すると、ハッとしたように薫は表情を変えて、口を濁した。

「あぁ…えっと。」

「いや、良いんだよ。

無理しなくて。」

有利はため息混じりに薫の肩をつかんだ。

「はい?」

「コンラッドだろ。



一体、何したんだよ?」

有利としては、なるべくソフトに言ってみる。

コンラッドも薫と同じように、きょとんとしていたが、

あぁ、と呟いてから、さらりと言ったのだ。

「私の胸を貸してたんですよ。」

「は?胸?」

ますます意味がわからなくなった有利。

コンラッドの隣で顔を赤くしながら、

コンラッドを不機嫌そうに睨み付ける薫。

「勘違いされるから、その言い方。」

淡々とした、薫の口調。

薫は有利に向き直って、一語ずつ選びながら話した。

「コンラッドに話聞いてもらったりしてたら、

ちょっと泣いちゃって…。」

(で、コンラッドが胸を貸してたわけか。

やっぱり紳士だなー。


あ、いや、待て待て。

そうすると、胸を貸すとはすなわち……。)

そこまで考えた有利は、薫の顔が紅い理由を

やっと理解した。

そして、

(そこまで、追い詰められてたのか…)

有利は、なんだか自分の不甲斐なさが嫌になりそうだった。

薫には、村田と同じようにあるはずの記憶がない。

しかも、有利のようなはっきりした『場所』が、ない。

薫が不安に思うのも当然だ。

有利の見たところ、薫は一人で抱え込もうとする癖があるようで、

それがまた薫をを苦しめたのだろう。

「気づけなくて…ごめん。」

有利はばつが悪そうに謝った。

「どうして謝るの?」

強がっているのか、

自覚がないのか、

当の薫は、有利の意図する想いを分かっていないようだ。

「いや、薫がそこまで追い詰められてたのに、

気づけなくて…。

急に知らない土地に来て、決闘とか騎士とか、

不安に思うの当たり前なのに、俺は全然気づけなくて。

こんなんじゃダメなのにな…。」

有利は空笑いをしながら言った。

しかし、薫は有利に向き直って言った。

「有利は立派な魔王だわ。

そんなこと言わないでよ。

それに私、泣いたのかなり久しぶりだし、

私自身も自分が追い詰められてたこと、分かって無かった。

たぶん、強がってたんだわ。

今までずっと独りだったし、

そうして強がっていることでしか自分を守れなかったから。」

薫の口調は静かで重みがあった。

「そうか、薫も大変だったんだな。

でも、今は一人じゃないだろ。」

「え?」

有利は満面の笑みで薫の手をとった。

「薫には、俺もコンラッドも、ヴォルフラムも…。」

後ろにいる不機嫌なヴォルフラムな、咳払いした。

有利も思わず苦笑いだ。

「俺たち、友達だろ?

だからさ、何かあったらいつでも相談してほしいし、

頼って欲しいって思うよ。

まぁ、こんな俺じゃあ頼りないかもしれないけど…。」

有利はそう言って笑った。

『友達』、その言葉が薫の胸深くに届く。

暖かい心地がした。

今まで知らなかった暖かい感情が心を優しく包み込む。


「ありがとう。

有利のおかげで、元気出たわ。」

薫は嬉しげに微笑んだ。


「そりゃ良かった〜。

やっぱ、薫には笑顔が一番似合うよ。


「…そう?」

「うん。

薫が嬉しいと俺も嬉しくなるよ。」

曇りのない有利の笑顔、薫は癒された気がした。

「それは私も同意見です。」

コンラッドも有利に賛同して、薫を見た。

「全く、仮にもグレタの母親がわりなのだろう。

しっかりしろ。」

と、罵声を浴びせて駆け寄るヴォルフラム。

「お前がそんな顔をしていては、僕も気分が悪い。

無理はするな。」


怒った口調でない、何処か優しいヴォルフラム。

「皆、ありがとう。」



心から感謝した。



出逢えた、仲間に…。




この瞬間に…。


どうか色褪せないようにと祈った。


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