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「薫は朝稽古?」

ギュンターもいなくなり、敬語も抜けたコンラッドにほっとした。

「ん、まぁね。」

「…この木、枯れてたはず。」

ふと、コンラッドが例の木を見た。

ギュン汁騒動で木を忘れていたことを、思い出した。

「さっき、ね。

私が木の幹に手を当てたら、葉が急に生えてね。」

半ば苦笑気味に言葉を濁す薫。

コンラッドは感心したように幹に手を当てた。

「貴方の帰りを待っていたのかもしれないですね。」

「私の帰り…。」

呟く声が風に響く。

自分が『騎士』だということに、

確かな実感がわかない。

今もただ断片的に記憶の夢を見るだけ。

しかも、ほんの一部だ。

薫が黙り込んでしまったのを見て、

コンラッドはふっと優しく微笑んだ。

「大丈夫。

貴方が誰であろうと、

俺が守りますから。」

「はっ!?」

いつもより爽やかな輝き三割増しの笑顔に、この台詞。

薫もさすがに、心配げにコンラッドを見た。

「何か変なもの食べた?」

「心外ですね。

ありのままを述べただけですよ。」

そう言うコンラッドの笑顔はいつになく眩しい、

いや、眩しい領域を通り越しているような気もした。

「でも、有利にもそう言ってるんでしょ?

私がただの人間だったらどうするのよ。

例え『騎士』だとしても、今の世界でそれがどういう存在かもわからないのにっ。」

うつ向く薫。

コンラッドに当たってもしょうがないことぐらい分かっていた。

だが、

―夢で感じた不安…。

――眞王に感じていた罪悪感…。

―――自分を覆う、迫り来る闇…。


夢で実感したものが『欠落している記憶』ならば、

何かしら『騎士』たる者は罪悪感を感じる行為をしていたのだ。


それが何なのか、

知らない自分がもどかしい、

知らない自分が腹立たしい。


薫の吐き捨てたような言葉に、

コンラッドは驚いたようだったが、

いつもの表情に戻って言った。

「薫は、薫だよ。

それで充分じゃないか?」

一番欲しかった言葉をくれた。

「薫…?」

ふと顔をあげると、コンラッドと目があった。

目頭があつくなる。


自分でも情けないと分かっていた。

それでも吐いてしまった言葉を、

優しく受け止めたコンラッド。

気づけば、一滴ほほを伝う涙。

「ぁ、ごめん。

大丈夫、だから。」

必死に誤魔化し、逃げようとした。

しかし、コンラッドは薫の腕をつかんで、

引き寄せた。

「泣きたいなら、泣けば良い。

それで薫の心が軽くなるなら。

俺の胸ならいくらでも、貸しますよ。

そう、他ならぬ貴女の為なら、ね。」

コンラッドの瞳はいつもより少し真剣で、

そして、いつもより少し寂しげだった。

薫は、そのまま糸が切れたように、

みっともないくらい泣いてしまった。

コンラッドはただずっと側にいて、薫に胸を貸して、

薫の髪を優しく撫でてくれた。











泣いたこと自体、久しぶりだった。

薫は滅多なことがないと、泣かなかった。

泣いたら、すべて心が折れてしまいそうだったから。

だからだろうか、今までためていた涙が

ダムから溢れでる水の様に次から次へとこぼれ落ちた。

張り裂けそうな不安も、

コンラッドのおかげか、泣いたあとは幾分楽になっていた。

「落ち着きましたか?」

「ん……ごめん。」

「謝らなくて良いから。

俺は嬉しかったしね。」

いつもの満面の笑みのコンラッドにハッとして、

思わずコンラッドから離れた、

いや、後ずさったとも言える。

決闘の時も似たようなことがあった。

(やっぱり策士だ…)

薫は確信した。


「あれ?相変わらず早起きだね。」

有利だ。

通常、何かある時以外は昨日のような時間に有利は起きない。

そろそろ朝食なのだろう。

もうそんな時間かと思いながら、

ほっと一息ついた。

駆け寄ってくる有利に手を降り返す。

ヴォルフラムがあくびをしながら、有利の後についている。

どうやら、朝には弱いらしい。

「二人で何してたの?

朝トレ?」

しかし、有利は薫を見るや、

唖然と黙ってコンラッドと薫を交互に見た。


あきゅろす。
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