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貎下のお気に入りは坊っちゃんぐらいかと、思っていたんですがねぇ…

とんだ誤算だったらしい。

下手すりゃ坊っちゃんなんかより恐ろし…ゴホンッ

隊長も熱あげちゃって、なんだか複雑だ〜

いや、まぁ良いコトなんだとはわかってるんですがね

どのみち、貎下の話からして、

あの騎士たる少女は、それこそ貎下に匹敵するぐらいの存在

とはいえ、貎下の言う通り記憶がないからか、

坊っちゃんとは違う意味で友好的で、他に類を見ない少女だ…

「ヨザックも剣使えるんだ、

じゃあ今度稽古つけてくれない?」

料理中に言われたこの一言にはさすがに驚いた

坊っちゃんでも、今の場合、稽古の一言までは言わないだろう

彼女の行動や言動の一つ一つに目が離せない


きっとこの先も……






参章




約束通り、グレタと薫はその夜一緒に寝た。

村田の説明はいまいち上手く飲み込めない内容だったが、

薫は、とりあえず村田の言葉に任せることにした。

なんとなくだが、村田は味方だと思えた。

いや、有利やコンラッド達も味方だとは思える。

だが、それとは違う友情と似た懐かしい信頼が村田には感じられた。

(記憶か……)


グレタが隣で規則正しい寝息を立てている。

薫はふっと微笑みながら、グレタの寝顔を見た。

(なんか、こんなこと前に誰かにしてた?)

急に懐かしい感覚が感じられたが、

しかし薫は誰かと寝た記憶はおろか、

頭をなでることなどまるでない。

その時、ふっと村田の部屋で寝た自分が恥ずかしくなった。

(どうか、他の人にはバレませんように…)

そんな心配をしながら、やがて薫は眠りについた。







―――――――――――――――――――――


「いつまで寝ているつもりだ?」

金髪の美声年が呆れたように言う。

しかし、木陰で休んでいる彼女は冷たくいい放つ。

「うるさいわね。良いじゃない。

ちょっとぐらい寝かせなさいよ。」

ちょっと傷ついた顔をしながら、男はため息をつく。

「俺に意見するのは、お前か大賢者ぐらいだ…。」

「でしょうね。」

それだけ言うと彼女は再び目を閉じてしまう。

(まだ、寝るか…?)

男が彼女に言うのを諦め、彼女の膝に頭を乗せて寝転んだ。

「ちょっと、何してるの?」

あからさまに不機嫌な彼女の声が頭上からした。

「俺も昼寝だ…。」

「王様が何してんのよ。

早く戻りなさい。」

しかし、男はあくびをしただけだ。

彼女は、男の髪をいじりながらもう一度言う。


「聞いてる?

今頃、彼は貴方のこと探してるはずたわ。

早く戻ってあげなさいよ。」

彼とは、この国の大賢者。

彼女と彼は、この王様のお守り役なのだ。

「お前が戻るなら、供に戻ろう。」

「却下。」

即答だ。

男は眉を潜めた。

「お前は俺の『騎士』だろう?」

「ぁ〜、そうだったかしら?」

適当に返す彼女に、男は再びため息をつく。

「あらあら、ため息すると幸せが逃げるわよ。

全く、しょうがないわね。

一緒に戻ってあげるわ。」

「本当か?」


男はガバッと起きて、彼女の瞳を見た。

(子供…)


心中でそう呟きながら、眠い目をこすり、立ち上がる。

「ほら、行くわよ。」

男の手を引いて、彼女はきびきびと歩き出した。

「ちょっと残念だ。」

男は彼女に腕を引かれながら、言葉を溢した。

「何が?」

「お前の寝顔をもっと見ていたかったのだがな…。

せっかくの機会を逃してしまった。」

しかし、男は言った後にその言葉を心底後悔した。

「くだらないこと言ってると、斬るわよ。」

気づけば剣の柄に手をかけている彼女。

彼女は国一の剣の使い手なのだ。

「そう怒るな。今のは、言葉のあやだ。」

しかし、彼女はきりっとした目で男を見据えた。

(こういう顔まで美しいと思ってしまうとは、

俺もまだまだだな。)

数分、沈黙のにらみ合いが続く。

「何をしてるんですか?」

そこへ大賢者が通りかかった。

「大賢者、ただいま。

ぁ、ちょっと聞いてよ!」

急に緊迫した空気を一転させるように叫んでから、彼女は大賢者のもとへ駆けていった。

「おかえりなさい。

また何かされたんですか?」

「そうなのよ!

遥々遠方から帰ってきたばかりで、寝ていた私を叩き起こしたのよ。」

「そこまではしていないだろう。」

「同じよ。こっちは疲れてるっていうのに。」

そのまま、眞王と言い合う彼女を見て、大賢者はふっと微笑んだ。

二人とも、他では素晴らしいほどの演技を披露し、

冷静沈着・才色兼備の名を轟かせている。

だが、お互いこの面子では素で言いたい放題だ。

(やはり、眞王には彼女は必要だ…)

そんなことをしみじみ感じる瞬間である。

「何笑ってるの?」

不審げに彼女が大賢者を見る。

「いいえ、やはり貴女は眞王の『騎士』に相応しい方だと。」

「そう?ありがとう。」

「俺が言った時は、曖昧に誤魔化したのに…。

何故お前はいつも大賢者には素直なんだ?」

眞王の問いに、彼女はきっぱりと答えた。

「貴方と大賢者では、説得力の有無が違うのよ。」

「ほう…、俺には説得力がないと?」

「えぇ。」

眞王にこうもはっきり言うのは、おそらく彼女だけ。

大賢者すらここまではっきり言わない。逆に眞王がはっきり言われることを許しているとも言える。

「さて、と。じゃあ、あとはお願いね。


私は誰かさんに邪魔された睡眠をとってくるわ。」

そう言うと、彼女はその場を後にした


一人、しん、とした廊下を歩きながら思う。


―――もう、あまり長くはない。

風が運ぶ悪い予感。

創主との闘いを経て、蝕まれてしまった寿命。

後悔はしていない。

だが、心残りがあった。

ただひとつだけ。


「もっと見ていたかったなぁ。」

…この国を、風景を、風を。

そして、我が君主を。

今も感じる、罪悪感。

「ごめん」

その言葉は、空虚な風に吸い込まれ、

届くことなく消えた。


いつか、もし生まれ変わったら、

貴方はもう一度『騎士』だと呼んでくれる?

それとも………?








閉ざされた記憶が途切れ、



ただ、闇が、深くなる。


不意に彼女が唇を動かして、

言った言葉。



『薫、過去にとらわれないで。』






――――――――――――――――――


………夢?


ふっと薫は目を開けた。

夢にしてはひどく繊細で、

今もまだ、あの男の髪に触れた感触すら思い出せる。

考えみるに、金髪の男が村田の言う眞王で、

大賢者というのが、昔の村田。

そうなると、夢の彼女は自分ということになる。

(記憶ってこと…?)

困惑しながらも、冷静に意図を手繰っていく。

(…あの木陰。)


夢に出てきた木陰を薫は覚えていた。

あまり人気のない穴場的な場所。

何故だかそこへ無性に行きたくなった。

グレタを起こさないように、布団から出て、服を着替える。


いつもの朝稽古も兼ねようと思い、刀を手にして部屋を出た。


あきゅろす。
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