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まさか、眞魔国で日本刀をお目にかかるとは思わなかった。
村田のクラスメートだって言うから、どんな子かと思ったけど。
なんか強いし、グレタにはなつかてるし。
複雑な父親心だ…うん。
魔王としても心強い反面、彼女に劣っているんじゃないかと感じる自分の無力さが歯がゆい。
だけど、俺は時々、彼女の表情が曇ることが気がかりだった。
俺は彼女の助けになれるだろうか…
彼女は一体何なのだろうか…
だけど、なんだかそれ以上は踏み込んではいけない気がした。
弐章
夕方の厨房前。
薫は母親心か、まずは手料理を食べさせてあげようと張り切っていた。
朝昼晩、ほぼ和食生活だった為か、薫も和食っぽいものを食べたいと思っていた。
(でも、そんな簡単に許してくれるかしら?)
隣のしゃぐグレタは何も心配している様子では無いようだが。
「何かご用ですか?」
「えぇと、今日の夕食作らせてもらえないかと…。」
厨房から現れたコックらしき人は、薫とグレタを見て唖然とした。
「カオル様に、グレタお嬢様!?
そんなっ滅相もございません!?」
(そうか…グレタは有利の子供だから、王女なのね)
おかげで、相手はかなり恐縮している。
「あらあら、何してるんですか?」
不意に後ろから声がした。
「ヨザック。今、帰り?」
「まぁね〜。ちょっと城下まで。
俺も決闘見たかったんですがねぇ」
「ヨザックが行ってくれてたのね、ありがとう」
「いやぁ、仕事ですからね。
それよりお二人こそ、どうかしたんですかぁ?」
ヨザックの問いにグレタが答えた。
「カオルがね、グレタ達の為にお夕食作ってくれるんだって!」
「そりゃ楽しみですね」
「うーん、でも…」
厨房の人は困っており、薫も言葉を濁した。
「じゃあ、グリエが手伝うわ」
「は?」
「大丈夫、ちゃんと見とくから」
ヨザックは念を押すように厨房の人に言った。
「わかりました、ヨザック様がそう言うのなら…」
「どうも」
「あ、ありがとうございます」
ヨザックのおかげでなんとか許可は得たらしい。
そういうわけで、ヨザックとグレタ、薫は厨房に入った。
最初は見てもらうだけの予定だったが、グレタもヨザックも手伝いたいというので、薫が指揮を執りつつ、夕食を作ることになった。
エプロンを身につけ、長い髪を結い上げながら、グレタに優しく指導する薫を見て、
(役得だな…)
ヨザックは唇の端をあげた。
グレタと薫は、本物の親子のようだった。
薫は驚くほど料理に慣れており、教え方も上手い。
ヨザックも勿論、料理には慣れており、薫とも良いコンビで、流れはスムーズだ。
「コレは?」
「まず、半分に切って…。」
薫は、的確に細かく、グレタを指導し、グレタも熱心にそれを受ける。
ヨザックは微笑ましげにそれを見ていた。
(まぁ、決闘見れなかったから、コレぐらいは、許してもらえるよなぁ…)
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一方、仕事がある程度片付いた有利は、大きく伸びをしながら部屋を出た。
しばらく歩き、何やら厨房近くがざわついているのが視界に入った。
「何かあったのかな?」
「いえ、そういう報告はなかったですけど」
有利の問いに、コンラッドや他の臣下達も首をかしげた。
有利は、厨房近くを通っていた村田に声をかけた。
「何?何かあったの?」
「いや、薫が夕食作ってるんだよ。今日は和食かな」
村田は嬉しげに呟いた。
「どういう意味だ?
何故、アイツが厨房に…」
ヴォルフラムは不審げに村田に言った。
「なんかね、『まずは母親として手料理を娘に食べさせたい』らしいよ。
まぁ、結局一緒に作ってるけど」
「えぇ!?グレタも一緒にいるのか!?」
有利は何を想像したのか、目頭を押さえた。
「薫はもう立派な母親だよ。
まさか娘の手料理が食えるなんて!?」
感激のあまり、涙を流す始末…。
「じゃあ、僕は行くからまたね。夕食が楽しみだ…」
村田は、いつかの家庭科の調理実習の薫を思い出しながら、上機嫌で去っていった。
「貎下があんなに機嫌が良いなんて、珍しいこともあるんですね」
「あはは、確かにさっきの村田は別の意味で怖かったかも」
有利は空笑いだ。
「ぁ、ちょっと覗いていかない?」
有利が言うと、コンラッドもヴォルフラムも賛成した。
ちょっとした人垣をよけ、厨房を除き見る。
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