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「――…で、いつまでそうしてるつもりですか?」
そこはかとなく不機嫌なコンラッドの声に、慌てて薫はヴォルフラムから離れた。
「ごめんね。ヴォルフラム」
「ぁ…いや、お前が悪いわけでは…」
ヴォルフラムは吃りながら答えた。
半ば、心ここにあらずといった状況である。
「素敵!」
ツェリの声が響く。
「カオルは、ヴォルフラムをお選びになったのね!」
「は?」
「は、母上!?」
ヴォルフラムも我に返った。
「ツェリ様、今のは事故です」
薫は、さらりと否定した。
あらまぁ残念、とツェリが肩を竦める。
「ユーリ、もう良い?」
未だに有利に目隠しされていたグレタがボソッと言った。
「あぁ!ゴメン、グレタ。」
とはいえ、グレタは首をかしげたままである。
「ねぇ、ユーリ、どうして見ちゃいけなかったの?
グレタは悪い子?」
「ぁーいや、グレタは良い子だよ!マジ、最高の娘だよ!
だけどね、今のはちょっと俺てきにはさ、グレタにはまだ見せたく無かったって言うか…。
うーん、親心?」
有利は自分でも混乱しつつ、グレタに説明した。
「でも、カオルがユーリかヴォルフラムと結婚してくれたら、グレタは嬉しいよ」
「「「は?」」」
有利とヴォルフラムと薫は、同時に唖然とした。
「グレタには、お父様は二人いるけど、お母様がいないから…」
やはりこの年頃で母が居ないのは、寂しいらしい。
「だから、私は貴女のお母様になってあげるって言ったでしょう?」
「は?待て、どういう意味だ?」
ヴォルフラムは、状況把握に着いていけずに、薫を見た。
「ぁ、昨日ね、グレタが寂しそうにしてたから、放っておけなくて…。
私も両親居ないから、せめてグレタの為になれたらって…」
「薫…」
ヴォルフラムと有利の胸に、薫の朝の言葉が響く。
『悪かったわね。
私は両親の顔すら知らないのよ。』
ヴォルフラムは胸に感じたチクリと刺すような痛みを誤魔化すように言った。
「まぁ、そういうことならしょうがないな」
「ヴォルフラム!ありがとう!」
グレタがヴォルフラムに抱きついた。
「我が娘の為だからな」
(ぁー、有利だけじゃなくて、ヴォルフラムも親バカだわ。)
薫はそう思いながら、コンラッドと目をあわせて苦笑いした。
「そういえば、カオルは体とかだるくない?」
コンラッドは、心配げに聞いた。
「ん?なんで?」
「さっき、急に魔力を使ったでしょう?
陛下なんかは最初決闘後に倒れましたからね。
今回も、正直ヒヤヒヤしましたよ」
「ん、大丈夫だと思うわ。
確かに魔力とかは初めてだったけど」
「そうですか。」
コンラッドは安心したのか、いつもの笑顔を浮かべていた。
「あれ?ギュンターは?」
有利が呟く。
審判をしていたはずのギュンターがいつのまにやらいなかった。
「書斎に行っちゃったよ。
フォンクライスト卿のことだから、何か気づいたんじゃないかな?」
答えたのは村田だった。
「気づいたって…、何に?」
薫の質問に、村田は肩をすくめた。
「夕食時に全部話すよ。
僕はまたちょっと眞王廟に行ってくる」
素っ気ない村田に驚いた薫だったが、構わず村田はその場を去っていった。
「貎下はもう、ことの状況を大方理解しているようだな」
グウェンダルがいつのまにやら、コンラッドの隣にいた。
ふと、グウェンダルが薫の刀を見た。
「先ほど、城下の職人と連絡をとった。
急ぎなら3日で出来るらしい」
「何が?」
薫は首をかしげた。
「その刀の鞘だ。
いつまでもそのままでは、持ち運びにも不便だろう。」
薫はやっと理解し、礼をのべる。
「ありがとう、グウェンダル」
「明日の朝、刀を借りるが良いか?
型をはかるだけだから、夕方には刀自体は返ってくる」
「了解。わざわざありがとうね」
「いや、構わん。そろそろ私は戻る」
そう言うとグウェンダルもその場を去っていった。
「私も部屋に戻ろうかなぁ」
薫が呟くと、グレタが
「今日は一緒に寝ようね!」
と言った。
「ええ、勿論よ、グレタ。ぁ、今から部屋に来ない?」
「え!?良いの!?行く行く!」
グレタははしゃぎながら、薫の手をとった。
「あぁ、やっぱり複雑だー」
有利は一人、項垂れた。
「陛下には、まだ仕事がたまってますからね」
「はぁ…、そうだった」
「へなちょこめ!」
「へなちょこ言うな!」
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