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(あれ?あつくない?)
薫は来るはずの衝撃が来ないことを不審に思い、目を開けた。
目を開けると、目の前…いや、頭上にコンラッドの顔があった。
「ご無事ですか?」
爽やかにニッコリと笑うコンラッドに薫は安心して力が抜けた。
(あれ?力が抜けたのに、地面に…)
感覚的に足が宙に浮かんでいる気がした。
(いや、まさか…)
そう思いながら、自分を見るた。
薫はコンラッドによって、例のごとく『宙に浮かんでいる』。
所謂、お姫様抱っこ。
「ナイス、コンラッド!」
有利の安心した歓喜の声がした。
「下ろしてよ、コンラッド」
「今はまだダメだよ。
足がすくんでるんでしょう?」
(……)
有無を言わせぬ満面の笑みに、コンラッドの本性が垣間見えた気がする。
コンラッドの言う通り、全く力が入らない薫はしょうがなく頷いた。
「邪魔をするなコンラート!」
しかし、一方では頭に血が昇ったヴォルフラムがカンカンに怒っている。
「お止めなさい!ヴォルフラム!」
ギュンターも叫ぶが、村田が慌ててギュンターに言った。
「ちょっと、待って」
「え?貎下?」
村田は見たのだ。
薫が瞬時に自分の周りに風の気を引き寄せ、炎の気流をずらしたことを…。
そのすぐ後にコンラッドが割って入り、ヴォルフラムは一度炎を戻した。
今、炎はコンラッドが加勢したせいで、怒りを更に増したせいか先ほどより強力そうだ。
「待てってどういう意味だよ!?」
有利が叫ぶ。
しかし、村田は意味ありげにメガネを光らせた。
「見てればわかる。ちょっと危険だけどね」
(彼女が『本物』なら…いや、きっと『本物に違いない』)
村田の態度に、周りもことの一貫を見守ることにした。
「退かないならコンラート共々打つからなっ!」
「えぇ!?」
薫は驚いてコンラッドを見たが、コンラッドはにこやかに微笑んだままだ。
「大丈夫だよ」
コンラッドは一言そう言った。
その時、頭に声が聞こえた。
『我が騎士、我が姫よ…。
唱えるが良い、汝の呪文を…』
(え…?)
ヴォルフラムの炎の龍が解き放たれた。
薫はすがる思いで目を閉じ、『声』に精神を集中させた。
「『騎士薫、風を請ひ、
その恵みを大地にもたらさむ』」
「目を開けてごらん」
コンラッドの声が耳元でした。
恐る恐る目を開けると、薫は浮かんでいた。
勿論、コンラッドごと。
結界のように、風がコンラッドと薫を包んでいる。
『…風がお前を守っている。
今、お前は風を自由自在に操れる。
無事、力は取り戻したようだな。
まぁ、記憶にはまだ時間がかかるだろうからな…。
では、な』
(待って!)
心の中で呼び止めたが、声は聞こえなくなった。
「大丈夫?」
コンラッドが心配げに薫を見た。
「うん、大丈夫よ。
ちょっとビックリしただけ」
そういうと、声の言った通り、薫の意思のままに風がコンラッドと薫をもとの場所に下ろした。
ふっと辺りを見回すと、再び腰を抜かしたヴォルフラムと目があった。
もう、炎など跡形もない。
ヴォルフラムは慌てて立ち上がると、ずかずかと薫に歩み寄った。
何を言われるかと思って身構えていたが、
「お前の」
ヴォルフラムはそう言いながら、薫の刀を差し出した。
「ぁ、ありがとう」
コンラッドから降りて、刀を受け取った。
コンラッドは何やら残念そうにしながら、いつものように微笑んでいる。
「お前を、認めてやらない…こともない」
ヴォルフラムは顔を真っ赤にして、顔をそらした。
「…さっきは悪かったな」
(意外に素直…。)
正直もう少し和解には時間がかかると思っていたので、ヴォルフラムの言葉に薫はほっとした。
「ヴォルフラム」
「ん」
薫は、右手をヴォルフラムに差し出した。
ヴォルフラムはまだ顔をあかくしたまま、右手を差し出し握手をした。
(仲良くなりたい…)
ヴォルフラムにはなんとなくそんな想いがあった。
薫もふふっと嬉しげに微笑んだ。
「ヴォルフラム!カオル!」
すると、グレタが急に駆けてきて、ヴォルフラム薫に抱きついた。
握手をしたままの至近距離だった上に、体の小さいグレタに抱きつかれたので、重みに偏りが生じた。
結果、ヴォルフラムに薫がよりかかり、
二人の柔らかい唇が触れた。
「あ」
グレタが思わず声をあげた。
「ダメ!見ちゃダメ!グレタ!」
グレタの父上こと有利が慌てて駆けてきて、グレタに目隠しをした。
(もう遅いと思うんだけど…)
薫はそう思いながら、突然駆け出してきた有利を見た。
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