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コンラッドは珍しく、闘いに目を見張った。

純粋に薫と闘ってみたいとも、感じた。

隣では、有利が口をあんぐり開けて薫を見ている。

その隣で村田は、メガネを押し上げながら、いつもと変わらぬ表情で腕組みしている。

グレタは祈るように両手を合わせて、ヴォルフラムと薫を見比べ、ツェリがグレタを安心させるように肩に手をおいた。

グウェンダルもいつもより眉間の皺が1つ多い。

さっきまで編みぐるみ談義をしていたとは思えない薫に、感心しながら心中でほくそ笑んだ。

ギュンターも瞬きせずに、二人を見つめるばかり…。

とはいえ、一番驚いたのはヴォルフラムだった。

ギュンターの合図があったすぐあと、急に薫の周りの空気が変わったことが身に感じられた。


その瞬間、背筋に底知れない悪寒を感じた。

剣を持つ手が震えそうになる。

(何なんだ…一体!?)

朝の鋭い薫の瞳と

喉元に突きつけられた日本刀の切っ先の感覚を思い出すとこめかみから冷や汗が伝った。

目の前の薫は刀を構えたまま、微動だにしない。

ただ、静寂が薫を包んでいる。

ヴォルフラムは自分をいきり立たせ、先手を打った。

だが、剣を振りかざした時には、薫が『そこ』にいなかった。

「遅い!」

薫の声が背後から聞こえた。

慌てて振り返り、間一髪で薫の日本刀を、受け止めるヴォルフラム。

「少しはやるようね。
もう終わりかと思ったわ」

冷ややかで淡々とした声、その声には明らかな余裕が感じられた。
「ふざけるなっ!」

言い返しながら、剣を弾き飛ばす。

薫は、ヴォルフラムに押された力を利用して、緩やかに後ろへ下がり、距離を取る。

「なんだ?来ないのか?」

今度はヴォルフラムが挑発する。



薫は、表情を変えずに答えた。

「言われなくとも、行かせてもらうわ」

答えるや否やバネのようにヴォルフラムへ斬り込む薫。

キィンッという、滑りぶつかり合う金属音が耳に響く。

容赦なく何度も斬り込む薫に、ヴォルフラムは防御するしかできなかった。

力で押せば勝るはず、しかし刀を押し返す前に、薫は次の斬り込みを素早く打ち込むのだ。

「くそっ。」

歴然とした差を見せつけられ、しかし攻められないヴォルフラム。

隙のない薫の太刀裁きにヴォルフラムは打たれ続けた。

何度かうたれた後に剣が、手から滑るように飛び、朝のように薫の刀の切っ先がヴォルフラムの喉元にあった。

「くっ…。」

ヴォルフラムはぐっと、唾を飲み込んで、ズタズタにされたプライドを恥じた。

(こんな屈辱…母上も見ているのに!)

羞恥でみるみる赤くなるヴォルフラムの顔が薫の目の前にある。

しかし、薫はそれを鼻で笑うこともなく、冷たい漆黒の瞳でヴォルフラムを見据える。

静寂の中、ヴォルフラムは薫の視線を逸らせずにいた。

不意にヴォルフラムは目の前の薫の瞳の綺麗さに見惚れて、別の意味で顔を真っ赤にし始めた。

その時、ギュンターがハッとしたように試合終了の合図を出す。

「それまで!」

すると、薫はふっと顔を和らげて刀を下ろした。

ヴォルフラムは、思わず腰を抜かしてその場にしゃがみこんだ。

薫は、刀を地に差し、しゃがんでヴォルフラムに手を差し出した。

「はい。」

しかし、ヴォルフラムはハッと我に返って、薫の手を払って立ち上がる。

「ふざけるなっ!」

ヴォルフラムは顔を真っ赤にして、薫の手を払ったその手に天にかざす。

「お前の魔族の証明をしろ。

これを防げたらお前を認めてやる。」



「あぁ!ダメだって。ヴォルフラム。」

有利の悪い予感は的中した。

薫も又、悪い予感がした為にゆっくりと立ち上がって後ずさる。

しかし、あくまで勝負から逃げるつもりはなかった。

そして、有利の叫びも虚しく、

「炎に属するすべての粒子よ、

創主を屠った魔族に従え!」

ヴォルフラムは薫に炎の龍を向けた。

「え…。」

(何これ!?)


予想外の展開に、今度は薫が冷や汗を流した。

足がすくんで動けなかった。

思わず目を閉じてしまう。

(これはまずい。)

思わず、村田も加勢しようとする。

「私におまかせを。」

不意に村田の横から声がしたと思えば、コンラッドが駆け出していた。

有利以外にはあまり本能的には動かないコンラッドだったが、何故か居ても立ってもいられなかった。





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