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「何かあった?」

有利達と別れてから、眞王廟から帰ってきた村田と会った。

「別に…。」

明らかに不機嫌な薫は顔を背けて、受け流した。

「―――…私は、どうしてここにいるのかなぁって思っただけ。」

しばらくして、ポツリと薫は言った。

「大丈夫。今日、わかるって。」
「なんで?」

「僕は大賢者だからね。」

「何それ?変なの。」

薫は、そう言いながら笑っていた。

「ぁ、今のうちにグウェンダルにお礼いってくる。」

ふと廊下で、グウェンダルを見つけ、薫は駆けていった。
(あぁ…また眞王妬きそうだな。)

村田は苦笑いしながら、薫の姿を見届けて、自室へと戻っていった。







一方、薫は…。

「おはようございます!」

「ん?」

グウェンダルが気づき、薫を見る。

「昨日はありがとうございました。」

きちんと礼をして、礼を述べるとグウェンダルは驚いたようだった。

「いや…。もう大丈夫なのか?」

「おかげさまで、大丈夫そう。
今日は、大事な決闘の日だしね」
(随分肝が据わっているな…。)

正直、有利の時はもっと慌ただしかった…いろいろと、とグウェンダルはいつかの出来事を思い返す。

対して、薫は一切焦った様子を見せていない。

それどころかむしろ…。

「あれ?それって、編みぐるみ?」

ふとグウェンダルが服のポッケに密かに入れていたであろう編みぐるみを見つけた。

「あぁ、グレタと交換したヤツだ。」

「ふーん、可愛いわね。
あれ?交換ってことは、グウェンダルもやるの?」

「まぁな」


グウェンダルの意外な一面を知り、薫は少し嬉しくなった。

「私もやったわ、精神集中の訓練とか言って…」

「!?」

まさか、薫からそんな言葉を聞くとは思わなかった。

(変わった少女だ…)

驚いたグウェンダルを見て、薫は苦笑いした。

「変な理由よね」

「いや、私もきっかけは、まぁそんな感じだ 」

コホンと恥ずかしげに話すグウェンダル。

「でも、私は長続きしないの。
グウェンダルは今でもやってるなんてすごいね。
ねぇ、グウェンダルの編みぐるみ見たいんだけど、良いかな?」

「…別に構わないが」


そうして、薫はグウェンダルの部屋へと向かったのである。







「ぁ!カオル!?もう大丈夫なの?」

「うん、昨日はごめんなさいね。グレタ」

グウェンダルの部屋にはすでに先客がいた。

グレタだった。

心配げに薫を見上げる幼い表情に、何度有利はノックアウトされたのかとふと思った。

「ううん、大丈夫。
ねぇ、カオルはどうしてここに来たの?」

「グウェンダルの編みぐるみを見せてもらおうと思って…」

すると、グレタは嬉しげに顔を輝かせた。

「嬉しい!グウェンダルはね、グレタの編みぐるみの先生なの!」

さすがにこれには面食らった薫だったが、グウェンダルの作品にはもっと面食らった。



「これがグウェンダルの編みぐるみ?」

「…あぁ」

相変わらず落ち着き払ったグウェンダル。

とても編みぐるみなどしているようには見えない。

グレタとは違う作風にも、驚いた。

でも、すごいことには変わらなかったが…。

「グウェンダルの編みぐるみって細かくて、丁寧ね」

見た目はともかく、かなりの技術はあるようだ。

「ねぇ、どれか気に入ったのあった?」

グレタに聞かれて、薫はじっくり棚の編みぐるみを吟味する。

そして、猫のようなしかし羽みたいなものがついたマスコットを指差した。

「コレ…かな?」

「わぁ!すごいね、カオル!」

すると、グレタはビックリしながらも嬉しげにグウェンダルと薫を見比べた。

薫は、困ってグウェンダルを見た。

意外にもグウェンダルは優しげな笑みを浮かべていた。

(ぁ、笑った…?)

相変わらず眉間の皺は寄っているが、微かに口元が綻んだ気がした。

薫は、グウェンダルが笑顔を見せたことで、なんとなく安心した。

グウェンダルはいつもより少し嬉しげに話す。

「それは、私の一番のお気に入りだ」

「そうだったの?」

するとグウェンダルは棚からその編みぐるみを取り、薫の前に差し出した。

「え?くれるの?」

「あぁ」

「ありがとう!」

満面の笑みでマスコットを受け取った。

「大切にするからね」

「そ、そうか」

「良かったね、グウェンダル!」

それから朝食中は、グウェンダルとグレタと薫で、編みぐるみについて花咲かせていた。

元気になったらしい薫を見て、村田もほっと安堵の息を漏らす。

そうして、ご前中は編みぐるみに耽り、昼食をすました。









そして、昼過ぎ。


ついに決闘の時が来た。



さすがに眞魔国について2日目なので、先伸ばしの案も出たが、薫は率先して断った。

今、すでに決闘の場にはヴォルフラムと薫が構えている。


審判はギュンター。


有利は、朝の出来事を気にしていた。

(ヴォルフラム…キレたりしないかなぁ。)

朝の様子を見る限り、明らかに薫の方が勝っている。

だが有利の昔の経験上、ヴォルフラムが魔力を使って、薫を第2ラウンドへ持ち越すことを恐れていた。


「はじめ!」


ギュンターの声が響いた。


冷たい闘いが幕を開ける。





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