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にじゅうし。いったい



彼女の言った言葉に、耳を疑った。



「え、何ですって?」

理解できない。
否、したくない。

「本当に知らなかったのかい?」

そう聞き返した彼女、メリサさんの顔は、素直に驚いていて



―――それが真実である事を物語ってい
た。



**

メリサさんとのやりとりを済ませ
一人廊下を歩く私の足取りは重い。

「はあ…」

先程の会話を思い出して
最早、本日何度目かも分からない溜め息を吐いた。

「メイド辞めたんでしょ、って…」

どういう事、と呟く私の声が広い廊下に消えていく。

私が要らなくなったのか
それとも只の人員削減か。

分からない。

しかしだからこそ、
今私は重たい足を引きずって彼の部屋に向かっているのだ。


否、向かったのだ。



「どういう事ですか」

こちらではなく彼の匣兵器、ベスターに目をやる目の前のボスに詰め寄る。
メイドは、沢山の人との交流の場であり、私自身の成長の場だったのに。

「人員不足なんだ」

そう言い放った彼、XANXUSさんに疑問を覚えた。

「なら、余計私をメイドから外した理由が分かりません。」

「メイドじゃねえよ、カス」

「カスカス言ってるとハゲますよー」

「俺にカスカス言わせるてめえの頭が悪いんだろ」

簡単じゃねえか、と言う彼の言った意味を一拍置いて理解する

「、わわ私の頭の密度の事言ってんですか!?」

「詰まってるとは思いがたいからな」

「―っ…、まままあ良いですよしし真実ですから!?」

滅茶苦茶動揺してんじゃねえか、と言うXANXUSさんはスルー、本題に戻る。

「とにかく、何で私がメイドを辞めなくちゃいけないんですか。
人員不足なら尚更です!!」

「人員不足はヴァリアーの方だ。
メイドじゃねえ。」

逆にメイドは腐った奴らが腐る程いるからな、と言うXANXUSさんにつかみかかりそうだった。
だめだだめだ衝動で殺しは良くない良くない。

いや、この人殺すのは絶対無理だけども。

取りあえずここは大人になろう。
話が進まない。

「ヴァリアーの人員不足で、私が何故?」

「頼りにしてるぜ。」

「………すいませんキャッチボールして下さい。
言葉のドッジボールほど虚しい物はないです。」

えっと…、と次に発すべき言葉を見つけられず私が押し黙るとXANXUSさんが再び口を開いた。



「せいぜい頑張るんだな、幹部補佐。」



え。

いま、なんていった。



か、

かかか

「幹部補佐ああぁぁぁああ!?何でどうして誰「うるせえ」

低く呟いたその声と共に彼の右手に現れた光にパクッと口を閉じる。

そんな光らせてどうすんすか。
エネルギーの無駄ですよ。
stop無駄遣い!!色んな意味で。

「…取りあえずてめえには幹部補佐の部屋に移動してもらう。さっさと行け。」

必要最低限以外の言葉しか話さない彼と何とかキャッチボールしている私はなんて偉いんだと思う。

「かっ消えろカス」

あれ、キャッチボール、……出来てる?

「わわっ、炎出さないで下さいよ!!
分かりました分かりました、行きますって!!」

彼は命令したら直ぐ動け、と言わんばかりに手をしっしと払う。
そんなに私の動きはトロかったろうか。

というか私最近扱い適当すぎないか?
いや、最近というよりも最初から、だけど。

そんな事を考えつつも足だけは従順に扉に向かっている事に、何故だか泣きそう
になった。


**

一人で歩くには広すぎるこの廊下。
この状況ではそれは酷く心細かった。

広い空間に押しつぶされるようなそんな錯覚を感じて
何故かそれが恐くなってきて、足を速めたそんな時に背後から聞き慣れたあの声


「う゛お゛ぉぉい」

「スクアーロさん!!」

嬉しくなってつい叫んだらスクアーロさんが怪訝そうな顔をしていた。

「あ、何か用でしたか?」

「当たり前だぁ。用がねえのに何でてめえに声掛けなきゃいけねぇんだぁ。」

「あっはっは。髪を紫に染めたんですかおめでとうございます。」

「ワインがぶちまけられてるんだぁ!!」

あんのクソボス、と憎々しげに呟くあたり
スクアーロさんの髪からワインが滴ってるのはやっぱりXANXUSさんが問題である
ようだ。

「それにしてもよぉ満千流。
お前も莫迦だよなぁ。」

「ハッ何すかイキナリ。分かりきった事を。」

こんな罵倒も最近では慣れっこ。
開き直って強気で返せば違うぞぉ、という言葉。

「違う?」

「何で、…なあ?」

言葉と共に吐き出された溜め息に憤慨する。
莫迦にしてます?あ、されてるんだった。
しかしそれを彼にぶつける前に一瞬で当の本人は姿を消していた。


何だったんだ一体。
莫迦だよなぁ、って何が。


疑問は残ったが気にする程の事でもないか、と直ぐに割りきって再び自室に向かおうとした途端に今度は

「満千流!!」

という特徴的な喋り方をした彼…彼女の声がした。

「ルッスさん。どうしまし――おぼっ」

振り向いた途端きつく抱き締められる。

ルッスさん、骨が軋む音がしています。
こんなにリアルなミシミシいう音初めて聞きました。

私が声すら出せずギブアップ、と彼女の腕を数回叩けば
「あら私ったらついやっちゃうんだから」
と楽しそうに言われた。

その"つい"で私は逝きかけるんですがね。
そんな意味を込めてルッスさんを見ると

「って違うのよ!そんな事はどうでも良いのよ!!」

と言われる。

どうでも良いすか。
私の全てがかかってるんですが。
私の命はそんな事すか。

私最近自虐的になったなあ、なんて考えた。

「満千流…聞いたわよ!
昇格じゃない!メイドから幹部補佐へ、なんて聞いた事無いわ!
凄いじゃない!」

「すいません。喜ぶポイントが全く見当たらないんですけど。」

本当だった。
唐突に突きつけられた現実、幹部補佐なんて地位は到底受け入れられる物なんかでは無く。
逆に強い抵抗感すら感じる程。

私はメイドが好きだったのだから。

辞めたくなんて、無かったし
辞めるつもりも毛頭無かった。

それなのに、どうして。
どうして急にそんな事。

私の表情が急に固くなった事には当然ルッスさんも気づいているだろう。
感情をコントロールする事は上手い方ではないと自分で自負している。

「すいません」

と先に何に対してか分からない謝罪をしたら

「本当…莫迦よねぇ。
どうせ幹部補佐になるならどうして私を選ばなかったのよ。」

心配するじゃないの、と言われる。


これが好きなんだ。


ルッスさんの見え隠れする日だまりの様な温かさが好き。
偽りなんかじゃ無い、本物の優しさ。
これに触れる度に私はいつも自分の存在、という物を肯定されている気がして胸
が一杯になる。

「ありがとう、ございます」

「本当よ。でも…なってしまった以上はやるしかないわ。
頑張るんだからね。苦しくなったらいつでも来なさい。」

「ルッスさん…!!
―――て、私は一体どなたの幹部補佐に…あれ、居ない。」

この場面でそうきますか。
最近慣れっこなパターンですね。
ヴァリアーで出会い早くも自分に馴染んできたパターンAですね。

はぁ、と溜め息。
恐らく先程スクアーロさんが私に莫迦だよなぁ、と言ったのは
ルッスさんが莫迦ね、と言った事と同じ事なのだと思う。


一体私が何をした。


教えて貰えなかったその疑問の答え。

知ってはいけない、と心が叫んでいるような気がしたのは気のせいだ。多分。

**

その先の未来は。



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