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にじゅうさん。じー


部屋に鳴り響く着信音。


こんな朝っぱらから誰が、とイライラしながら電話を取れば、聞こえてきたあい
つの焦った声に

気がつけば部屋を飛び出していた。



「満千流!?」


大きな音を立ててあいつの部屋のドアを開けた。
そして部屋のベッドに腰掛けて呆然としている満千流を見つけ、声を掛ける

「何が起こったわけ?」

「実は、部屋にさ、その…い…―――あ、ていうか王子君寝てた?」

「ったりまえだろ。今何時だと思ってんだよ。」

ふざけんなよ、とコロッと話題を変えた満千流に言う。
こいつは一体何がしたいのか分かんねー事が多い。


満千流は俺の問いをうけて自分の腕時計を見ながら

「え、と9時ですね。午前9時。
こんな時間まで寝てたなんて…お寝坊さんだな王子君たらー」

本当何だこいつ。

もー、とか言いながらニヤニヤ笑ってくる満千流の目の前でわざとナイフを
弄びながら

「は?王子の快眠ぶった切って何言ってくれてんのお前?」

と言ったら満千流は真面目な顔をして謝ってきた。

よしよし、それで良いんだよ。


大体、満千流と俺らの生活は真逆なんだよ。

メイドとして朝っぱらから働くこいつと、
夜中に任務こなして昼間寝てる俺ら。


満千流は恐らくそれを知らないのだろう。
しかしそれを説明するのも面倒くさい。
だから今なお

「でもさ、もう今午前9時…」

とブツブツ不満を漏らす満千流は
再度ナイフをちらつかせる事で処理した

「もーこれだから王子君は堕王子なん、っうわ」

わざと満千流の目前を通るようにナイフを投げてやった。
カカカッという音と共に壁にナイフが突き刺さる

「懲りねー奴だな。本当に刺すぞ」

「でも…そう言いながらも刺さないでくれるもんね」

言われた言葉に驚いて、は?と聞き返したら
満千流は、んね、ともう一度強調する事でそれに答えた。

んだよ、こいつ。調子狂うし。

しかしそんな事思っているだなんて悟られたくない。
いつもの調子で口を開く。

「大体、俺のどこが堕王子なんだっつーの。

つかてめえは何だよ。
墜ちまくって地球の裏側まで行ってんじゃん。」

「だいじょーぶ。
私沈まないから浮かないもん。挫折したらそのまんま。」

「胸張るな。恥じろよ」

へへっ、と笑う満千流につられて俺も笑った。

こういう時間も有り、なのかもしれないなと漠然と思う。

満千流が造る独自の世界。
それは確実に暗殺者として生きる自分の安らぎの場となっている事に俺は気づい
ていた。


絶対言わねーけど。



すると満千流が唐突に口を開いて
「王子君てさ、髪綺麗だよね」

と俺の髪をふわりと触りながらそう言った。

「っ!!」

急に触られた事に反応し、いつもの癖で本能的に満千流の腕を勢い良く払う


しかし直ぐに自分のした事を後悔した。

「わ、悪い」

「あ、いや、私こそごめん。
暗殺者のこんなに近くにいった私が悪いわ。
落ち着かないし、嫌だよね」

ソーリーソーリー、と軽く謝ってきた満千流に内心ホッとした。


すると満千流があのね、と唐突に声を掛けてきた。

「また一緒にやろって言ってもらった。」

「何を?」

「任務。クロームちゃんが、この間。」

そ、と短く返す。
満千流が言いたい事がいまいち良く分からなかったからだ。

「一緒に、やってくれるって言ってくれた。」

「…だから、何だよ?」


「凄く嬉しかったなあって」


そんだけ、と言いながらも満千流はとても嬉しそうで。

何でそんな事が嬉しいんだよ、と言えば


「人間は必要とされるとやっぱり嬉しいものなんだよ。」


「そんだけでか?」

「それだけで、十分でしょ。王子君は違うの?
誰かに必要とされたら、なんだかんだ言って嬉しくない?」


何の偽りも無いその純粋な問いに俺は一度答えに詰まった。

「わけ分かんねー」

そう呟いた後も、ちらと見た満千流の屈託の無い笑顔に

胸が熱くなった。

問いの意味なんて分からなかったし
それに対して迷わず嬉しいと言った満千流も良く分かんねー。


なのに、この感覚。

この、心が洗われるようなこの感覚は、



すんなり自分に溶け込んで。



赤で染まった無機質なこの世界が、一瞬光に包まれた気がした。


今の自分は嫌いじゃないんだ。
屍の上を生きる今の自分は決して嫌いじゃない。

けれど、良い気分はしなかった

そんな自分に今、一瞬だけ親しみが湧いて。



俺、一体どうしたんだよ



と自分に聞いてみて
直ぐそこに答えがあるのに掴めない、そんなもどかしさに襲われた。



「王子君とさ、一回任務してみたいな」

ぽそっと呟いた満千流の声。
急な事で一瞬言葉に詰まった。

「、任務?」

「うん。楽しそうだなあと」

「そりゃ良いけどさ…」

つーかさ、と俺は前々から気になっていた疑問を満千流にぶつける。



「お前メイドは?」



すると満千流は驚いたように目を見開いて、

固まった。


つくづく、おもしれー奴、と思う。



「……………め、いど」

「そ。メイド。何、お前ヴァリアーに永久就職でもすんの?」

「すすすするわけ無いじゃん!!」

「つーか最近お前メイドの仕事したのか?」

「いや、ね。疑問は感じてるんだ。
最近メイドの仕事なんて全然忘れてるのに何にも言われない。」

「ししっお前の存在感が無さすぎるせいじゃね?」

「ありすぎてウザイって言われるんですけど」

「要はさ、ありすぎるから存在否定されて無いものにされてんだろ」


俺の容赦ないその言葉に、満千流は些(いささ)か傷付いたようだ

グサッ、とか言いながら胸を押さえてベッドに倒れ込み

がびょびょーん…と呟いている。
非常に古いネタを持ち出してきた。

そして、一度寝返りをうってこちらに背を向けた後
更に、ブツブツ何かを言っている。


マジこいつ面白いんだけど


「まあよ、人生そんなもんだって」

「………王子君に人生語られた」

終わりだ私、と頭を抱えた満千流にナイフを投げる。

どうわっ、とか言いながらも間一髪避けていた。

チッ

でもまあ王子本気で投げてねーしな
これくらいで死なれたら逆に困るし


「つーかさ、どうわっ、ってどんな叫び声だよ」

「それが私の生活(日常編)。」

「親指立てんな。
つか(日常編)って何だよ。他もあるわけ?」

「お、知りた「別に」

すると今度は満千流、どよよよよーん…と口で言いながら(普通効果音って口
に出さなくね?)床にドサッと倒れ込んだ。


………いや、違うか。

ただベッドの上で寝返りうったら落ちたんだな。

「お前本当おもしれー」

「どうもー。誉められてる気全くしないけども」

「当たり前じゃん誉め「私さ、メリサさんに聞いてくるよ!!」

何を思ったか急に元気を取り戻しベッドの上でピョンピョン飛び跳ねる満千流


何だか腹が立ったので足払いをかけたら見事ベッドに顔からダイブしていた。


「酷い…そりゃ無いっすよ王子君…」


ベッドにうつ伏せになったまま満千流が蚊の鳴くような声でそう言った。


そして急に、あれ、と間抜けな声を出して

「そういえば王子君何でここに居るの?」
とさも不思議そうに聞いてきた。

あれじゃねーし。
朝っぱらから電話掛けてきたろ
俺の貴重な睡眠邪魔しやがって

忘れてんじゃねえよ


しかし今更説明するのも面倒くさかったからそれは省いて質問する

「お前さっき泣けてくる出来事とかあった?」

「おう?泣けてくる…?」


うー…ん、と唸り声をあげて考える満千流に、
もしかしてコイツが寝ぼけていただけか?
とも思ったが、どうやらそれは違ったようだ。
直ぐに満千流はポンと手を打ち、そういえば、と切り出した。

「相部屋の友達が死んじゃってさ。」

「…相部屋?」

おかしいだろ。

ここヴァリアーには、一人部屋しか存在しない。
大体、満千流が友達と呼べる層の人間はメイドには居ない筈だ。

そんな俺の気持ちを悟ってか満千流が再度口を開いた。


「ここに来た時からずっと仲良くしてたんだけどね。

出会ったのは裏庭にある倉庫。
私がそこに入れられてる絵画を取りに行った時。

絵画の場所が分からなくて埃まみれになりながら探してたらね、
当時そこに住んでいた彼がここにあるよ、って教えてくれたの。

それで少しお喋りをしてね、そこから仲良くなってね。

帰り際、私は彼と離れたくなかったから半ば無理矢理彼を手に乗せて部屋まで連
れて行った。

でも彼は大人でね、そんな私を「ちょっーと待て。」

遠い目をして嘘臭く目元を拭う満千流を止める。

だんだん話が怪しくなってきた。

倉庫に住んでた?
手に乗せた?


明らかに人間じゃねえじゃん

「参考程度に聞くぜ?彼って誰だよ」

「それはね、最近世間でGと呼ばれるキュートな触角がチャームポイントの黒光
りする彼「ゴキブリか」

何なんだこの女。

ゴキブリと戯れるってどんなんだよ。
つか初めて見たし。

終いには、「そう!!正解!!正式にはゴッキーって言うんだよ!!」なんてキャッキ
ャッ言ってる。


睡眠時間減らしてまで満千流の部屋駆けつけた
俺の焦りは何だったんだ

ハァ、と溜め息を吐いた。

馬鹿馬鹿しくてやってらんねー
つか何で王子に電話すんだよ
つか何であいつ俺のアドレス知ってんの。

あ、そういやこの間交換したか。

初電話がこんな事になるとは思いもしなかったけどな。

ほんと、こんなに焦る必要無かっ―――



―――…焦った?



俺が?
満千流の為に?

睡眠時間削ってまで?
電話聞いた途端飛び出して?



………何だそれ。



意味分かんねえし。
寝起きで気が動転したのか?


しかし何故か俺はこれ以上考えたくなくて。

マジ、ありえねー、ともう一度呟く事で話を流し、
得体の知れないモヤモヤにイライラしながら

満千流の部屋を後にした。


******

ちょっーとだけ進展。

初回から微動だにしなかった彼らに初めての変化です。


読んで下さって有難うございました。


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