子供が夢を語るのに息苦しさを覚えたのは、いつからだろう。 込み上げた切なさをフォークの先に込めて、ケーキの上にふてぶてしく居座る子供の夢のような苺と共に胃に放り込めば、酸で溶け始めた苺から切なさが滲み出て、今すぐ出してくれと言わんばかりにキリキリと胃を痛め付ける。 苺好きだったはずでしょ? なんて顔してるの。外れだった? なんて呑気に言ってきた彼女の口元には血色の良さそうな色が引かれ、ばっちり引いたアイラインは綺麗な弧を描き笑っていた。その姿は昔のような少女ではなく知らない女の人だ。 僕は今、子供の頃の地図も知らない場所にいる。周りは真っ白で、太陽に透かしてもオレンジの汁で書かれてないかオーブンで焼いても浮き出る事はない。 あの輝く冒険の日々を過ごしていた昔の僕に、今の自分はどう映えるだろう。 見掛けは案外良い大人に見えるかも知れないし、こんなの絶対嘘だと泣かれるかもしれない。 こんな時こそ歪でこんがらがったようで、意外と整頓された色のころころ変わる場所に行ってみたいのに。 帽子をくれた男の子はまだ居てくれているだろうか。 あの場所の名前は何だっただろう。 ふわり と、僕の手に重ねられた彼女の手が僕を優しく現実に引き戻した。 その薬指がちかりと光り、ああ、溶けた苺は酸っぱいだけでは無かったことを思い出し僕は微笑んだ。 僕らは来月式を挙げる。 ----------------------- 急 展 開。 オレンジの汁で文字書くの懐かしい。 大人になったんだなーってしみじみ、しんみりする話を書こうとしたらただのマリッジブルーですね、ネスさん。 |