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いらいらと暑いに見やれ雲が出た

※忠実混ざっちゃってます!
※凄い気弱なエロス!!(;´Д`)
※芭蕉さんが酷い人


「おい、ばしょぉう」
「なんだよ。…ってか暑い!くっつかないで!」

茹だるような暑さの午後、べたっとくっつく影二つ。

其処には芭蕉と路通がいた。
二人とも着物を纏っていない、裸である。

部屋中に籠る雄の香りは、数刻前に何があったのかを明確に示していた。

「えー、どうせ今までヤってたんだからいーだろ少し位。」

「えーじゃないでしょえーじゃ。そもそも私は句会の用意をしてたの。それを勝手に入って来た挙げ句に人の事押し倒して来たの誰だよ、もう。お陰で墨は溢れるし服はドロドロになるし畳だって…」

「でも、気持ち良かった。だろ?」

くちゅ、と芭蕉の耳殻をなぶってやると、面白いぐらいに身体が跳ねた。

「――…っん…!ちょっと!もうしないよ!!今日は曽良君が迎えに来てくれるんだからさ」

聞き慣れない名前があげられ、路通ははた、と動きを止める。

「そら?あぁ、最近入った奴か。どんな感じ?」

芭蕉はそこら辺に有った懐紙で畳を拭くと、ぽいと屑籠へ投げ入れた。

「とても良い子だよ。句は巧いし何かと世話を焼いてくれるし…でも、さ…」

「なによ。」

ふっと芭蕉の瞳が揺れたのを路通は見逃さなかった。

「…なんか時々、どうしてこの子うちの門弟になったんだろって思う時がある…。」

「どうしてまた?お前がそんな事言うの珍しいじゃねぇか。こーんな俺ですら弟子として囲ってるのによ。」

そうなのだ。路通は蕉門きってのやんちゃ者で、(後に到底やんちゃでは済まされない事まで行うが)他の門人には疎まれているのである。

しかしてそれをさらっと言ってのける軽妙さが、彼の句にも表れているのだ。

芭蕉は一つ溜め息をつくと、ひっそりと吐き出した。

「あの子の目さ。」
「は…目?」

路通は気が抜けたように返す。

「そ。時々、物凄い目で睨んで来るんだ。そりゃあもう殺意が籠ってると言ってもいい位。ちょうど今のように、他人と話しているとね。」

路通は目を見張った。

…それは、よーするに、そーいう事なんじゃないデスカ?

そもそも芭蕉という人間は、貞操観念が薄い。

いや、薄いというより、無い。

乞われれば誰にでも身体を開くし、どんな遊女かと見まごう行為までしてみせる。

現に路通の他にもそういう間柄になっている者は沢山居るのだろう。

路通は早い段階で芭蕉のその悪癖に気付き、割り切って付き合っている。

しかし芭蕉はそれで良いのかもしれないが、彼を恋慕う者にとっては地獄なのだろうな、と路通はふと思ってしまうのだが。

そんな彼の事だ、どうせ激情の篭った目線の持つ意味なんて解らないのだろう。

ならば少しばかりからかってみるのも一興ではないだろうか。

「芭蕉。そりゃお前、嫌われてんだよ。」

呆れた、という風に指摘してやると芭蕉は慌てふためいた。

「えぇ!?やっぱり、路通もそう思う?」

「あぁ。」

「だよねぇ、だって普通だったら師匠の事力の限り殴り跳ばすなんて事しないもの…」

松尾バションボリ、と肩を落としてしまった。

「ははっ、殴られてんのかよ。だっせー。」

「むきょー!!なんだと!?こっちは真面目に相談してるのに!!」

その時ちょうど玄関の戸が開く音がした。

「へいへい。――っと、噂の本人、来たみたいだぜ?」

「え、うっそ。ちょ、やば、私まだ何も着てな…」

路通は自分一人手早く着物を着けると、ついと芭蕉の顎を掬った。

「んじゃ、俺は帰るぜ芭蕉。精々曽良に殺されない様にだけ気を付けな。」

そう言うと路通は芭蕉に掠め取る様な接吻を落とす。

みるみるうちに芭蕉の頬が朱に染まってゆくのを見るのは、中々に爽快な気分だった。

「っ馬鹿!もう二度と来んな!!」

ばし!と襦袢を投げつけられるが、痛くも痒くもない。

「やぁなこったー。」




廊下で曽良と擦れ違った。
このくそ暑い最中なのにも関わらず、しゃんと着こなした紺の着物は曽良の人柄をも表しているようだ。

対して路通は暑いからと掛け衿をすっかり寛げてしまっている。

「おや、路通さん。」

「よう曽良、芭蕉なら今きっと取り込み中だぜ。少し待ってから行けよ。」

何が、とは言わなかったが、既に曽良は二人の関係に気付いている。

皆まで言わんでも理解しただろう。

んじゃ、と手を挙げて立ち去ろうとした路通を曽良は呼び留めた。

「負けませんから。」

「へぇ?」

片眉を吊り上げて挑発すると、曽良を取り巻く雰囲気がガラッと変化した。

「あの人、渡しませんから。確かに貴方は身体を手に入れたのでしょうけど心までは渡しません。芭蕉さんは全部全部僕のものです。その内貴方の事なんて忘れさせてやりますよ。」

その瞳は、まるで夜叉の様。
芭蕉が言ってたのは此れか。

「…あーあー、うん。その台詞、芭蕉にも言ってやんなよ。そーらちゃん。」

つん、と曽良の額を突ついた。

「っはぁ!?馬鹿ですかアンタ!!」

曽良が食って掛かろうとした時、後ろから芭蕉の叫び声が聞こえた。

「キンチョォォォール!!黒い悪魔が!黒い悪魔が私の着物にぃいいィィィィ!!」

どうやらGが出たらしい。

「なんですか芭蕉さん騒々しい!こっちは今大事な話をしてるんですか…って待て!八十村路通!!」

既に廊下の曲がり角まで着いた路通は、笑いながらひょっと顔を出した。

「ばいばい河合曽良」

また会おう、と去っていく様子は、宛ら夏嵐。

跡には憤慨した曽良だけが取り残されていた。

まだまだ青いな若者よ!!


芭蕉さんは、よしただの事をずっと引き摺って、よしたださま以外なんてみんないっしょ!と思ってるといい。
芭蕉さんと路通の間に欲と打算は在っても愛は無い。
曽良くんはまだ弟子入りしたばっかでなんも知らんといいなというもうそう。



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