[携帯モード] [URL送信]

屋根裏部屋
変化2

「――?」

どうした、と聞こえた気がした。
俺は目を見開き、耳を疑う。いつもの声と、明らかに異なっていた。まるで愛しいモノに話しかけるみたいな、そういう甘い声。

「……、」
俺は自分の声を失い、思わず首を傾げた。すぐに横の席の女の子に話しかける。
「ね、大沢さんて結婚してたっけ?」
「……結婚?」
田代さんは噂が大好きで情報通な女の子だった。自慢の長い黒髪をかきあげながら、うーんと唸る。
「そういえば、なんか最近は女の影があるとかないとか、」
「……あの人、女の子に興味あるのか、」

どうしても一人の女性を特別視している男性には思えない。あれだけ完璧な仕事ぶりを見ていると、彼には女なんてなくても大丈夫な気がする。というか、彼にはそういう煩悩なんてなさそうな気がするな。
「あら、失礼なことはっきりと言うわね。…まあ、なんか人間ぽくないもんね、仕事中の大沢さんって。」
「だってさ、今出てた電話、いつもの厳しい声とは間逆だったんだ、」

優しくて甘やかすみたいな、穏やかな声。
これには彼女も驚いていたみたいだった。
「じゃあ、相手は恋人ってこと?」
「さあ。でも、それ以外には考えにくいよな…。」
「へえ…。彼に愛される子って、どんな女の人なんだろう、」
「んー…、美人でお嬢様で…。あ、いや、むしろ何も持ってない女の子なのかなあ。」
どういう意味、というように田代さんは俺を見る。
「地位とか、学歴とか、お金とか家柄とかさ、全部持ってない女の子。」
「大沢さんが全部持ってるものね、」
「そーゆーこと、」
あり得る、と我ながら納得する。何にも染まっていない、真っ白な女の子なのかもな。



BacK:NexT

6/7ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!