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屋根裏部屋
変化1

定時5時に終業の短い音楽が放送される。それを聞いてすぐ、俺は帰り仕度を始めた。

俺の席は入口に一番近い部屋の端だ。そういうわけもあって、俺はいつも一番にこのオフィスを出ている。

今日の夕飯はどのカップ麺にしようか。
そんなことを頭の隅で考えつつ、自分の視線はある人を見詰めていた。今日は一番にオフィスを出ようとしている別の人間がいた。

『彼』は表情こそ変えてはいなかったものの、行動には落ち着きのなさが見て取れた。思わず男の俺も振り返るほど、整った中性的な顔立ち。
「大沢さん、」
女性社員がプリントの束を持って彼に近寄ってゆく。大沢さんは明らかに面倒そうな表情を見せて、その束を見た。
「来週の会議の資料と出席者の一覧です。確認お願いします。」
紙を手渡した女性社員は、笑顔が可愛い若い子だった。大沢さんに微笑みかけている。
俺なら余分に二言三言話しかけるところだが…。
「了解」
大沢さんは硬い面持ちを一切変えずにブツを受け取ると、さっさとそれを鞄に放り込んだ。何か大切な用事でも控えているのか、珍しいほどの慌てようだ。
まるで彼女どころではないみたいだった。荷物を全部引っ掴むと、長い足を使って大股でこちらに向かってくる。

大事な資料じゃないのか。
一瞬そう思ったが、大沢さんが携帯を取り出すのを見ることに意識は向かった。彼が取り出した携帯は仕事用の黒い携帯。着信ランプが黄色に光る。

「大沢さん、明日の出張の件ですが、」
彼が携帯を手に持ったところで、彼の後方から声がかかった。大沢さんの部下の霧里さんだ。大沢さんは軽くため息を落とした。
「少し待て、」
そして短く何かを霧里さんに囁いて追い払うように手を振ると、大沢さんはすぐに着信に出た。

誰からの電話なのか。

もちろん興味津々だった。頭は動かさず、視線だけを出来るだけ横に向け、耳は全神経を後ろに集中させる。




BacK:NexT

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