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10000HIT企画小説
HOLY AND BRIGHT(1)


 眼前で散った、紅い花弁。
「う、あ……!」
 取り落としたことなど見たこともない紅槍がカランと空虚な音をさせて地面に落ち、それを追うように地についた紅い具足に覆われた膝。翻る紅い鉢巻。

 紅、紅、紅。

 顔の右側を覆う紅い手甲。
 指の間や顎から滴る血。

 紅。

 どくり、と生々しい心臓の音とともに、視界すらも紅く染めあがる。

「ゆき、むら?」

 己の声が遠い。
 しかし、耳に届く己のその声で、――自覚する。

 これは。この紅い影は。

「幸村あああああ!!」

 ついに地面に伏した紅蓮に向かって絶叫した。


 猛将・真田幸村が倒れたことで敵方が沸き立ったのは一瞬のことだった。
 直後に吹き荒れた嵐のごとき独眼竜の猛攻により戦局は一変。
 甲斐・奥州連合軍の圧勝に終わった。
 ――何人たりと、前に進むことは出来なかった、と生還した兵は恐れおののきながら伝える。
 そこには逆鱗に触れられた荒ぶる竜が咆哮をあげ、背後の紅の若虎を守るかのようだった、と。

    ◇    ◇    ◇

 本陣に運ばれた幸村にはかろうじて意識があった。
「大丈夫、大丈夫でござるよ、政宗殿」
 離れようとしない政宗に、顔の片面に巻かれた晒しを赤く染めながらも微笑んでみせる。
「少し傷ついただけでござる、大丈夫でござる」
「しかし、幸村!」
「ご心配なく、政宗殿」
 小さな赤い染みがどんどんと広がっていくのだ。染みは斑点になり、その面積を広げて。
「顔の傷は血がよく出ることぐらいは政宗殿もご存じでござろう? 某は血の気が多うござるから、余計によく出るだけでござる」
 半面を覆われながらもニコリと笑って見せた幸村は、そろりと手を政宗に伸ばした。空に浮くその手を慌てたように取る政宗に、幸村は笑みを深めて目を細めた。
「某よりも、政宗殿の方が余程重傷に見えまするぞ。どこかお怪我なさったか?」
「……馬鹿野郎」
 そんなはずがない、と一番判っているのは幸村のはずだ。隻眼故の死角を狙った敵兵からこの身を庇った故の負傷。
 咄嗟の行動故に崩れた姿勢に下ろされた刃を避けきれなかった幸村は、顔の右側――右目付近を大きく切られたのだ。
「目玉に損傷はないよ。ただ場所が場所だからねえ…」
 手当てを終えた忍びが深く重く息を吐く。
「……うちの旦那の可愛い顔に傷が残っちゃったらどうしよう……!」
「傷ぐらいがどうした。背中ではなく正面の傷は恥ではないぞ!」
「そういうんじゃありません! 折角可愛く育ったのに……右目の旦那みたいに表通り歩けない面構えになったらどうするの!」
「……猿飛、テメエ……」
 傍らに立っていた小十郎が唸る。
 一人どこか違う心配をしている忍びに力が抜けそうになる。
 くすり、と幸村はまた笑った。
「ほれ、この通り。佐助もこの様子です、心配ござらぬ」
 きゅ、と手を握り返すその力は確かなもので。
 思わず深く吐息を漏らしたのを見た幸村は、また柔らかく微笑んだ。


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黒須様からいただいたリクエスト、「幸村が政宗を庇って右目負傷、でシリアス&甘いお話」です。

短くてすいません……
書けた分随時アップしていきます!

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あきゅろす。
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