09.12.30〜
響く法螺貝の音と共に、すぐ傍にあった熱が離れた。
ああ畜生。
お楽しみの時間は終わりだ。
「お互い引き上げでござるな」
残念そうに幸村は言う。
「今回も決着はおあずけかよ」
いつもいつも紙一重。
どちらが優位かも判らぬほどの拮抗状態で引き上げを迎える。
面白くねえ、と呟きながら、六爪を鞘に収めると、幸村も紅鮮やかな十文字槍を背負った。
これで、本当に、今回はここまで。
お互い、軍に戻ってそれぞれを率いなければならない。
「それじゃあな、次の戦までその首繋げとけよ?」
「貴公こそ、ゆめゆめご油断めされるな」
勝敗もいつもの事ながら、交わす言葉もいつも同じ。
小さい子供が「またね」と簡単に言う言葉の代わりに、自分たちはわざわざ物騒な言い方をする。
それだけ、約束は重くなる。
その重さが自分たちを生かす。
一歩、二歩と離れるだけ、自分たちの次の約束は儚くなっていくから、果たされるように、遂げられるように、重く重くのしかかるようにしなければ。
五歩、六歩。
熱が離れる。紅蓮の、かすめるだけでも火傷してしまいそうなあの熱が。
十歩。
もう、感じることもできない。
(いるのか)
本当に、いるのか。そこに居るのか。
背を向けて、見えないところで、幸村は倒れてはいないか。
足を止めて、耳を澄ませる。
さく、さく、と規則正しく遠ざかる足音。
離れていく幸村。
振り返ると、視線の先でゆらり、と幸村の背が揺れた。
長い髪が、
赤い鉢巻が宙を舞う。
「……Ha、」
くっ、と喉を鳴らした。
どこか切羽詰まった表情で振り返った幸村は、歩みを止めていた自分を見て驚いたのだろう。
一瞬目を見開き、直後、一気に駆け出す。
どこか悔しげな、しかし朱の走ったその表情に、自然と唇が笑みを刻んだ。
「……っ、んの、……!」
勢いづいたままに腕を取られて体が傾く。
そこに不器用に押し付けられた唇。
(……ああ、そうだ)
その熱さを奪い取るようにかみつくように重ねかえした。
ああ、そうだ。
この熱が欲しかったんだ。
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前回拍手お礼文、筆頭視点。
幸村が思う程筆頭は余裕をぶちまかしてたわけではなく、むしろ筆頭の方が名残惜しんでいたという。
それをそう見せないあたりが筆頭の侠気です(なんか違う)
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