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<5−1>

 酒もいけるがやはり好きなのは甘味だという幸村をつれて、城下町へと向かった。
 羽織や六爪は目立つので、町人styleに身をやつす。
 小十郎はいい顔をしなかったが、執務は完全に終えていたし、やたらとはしゃぐ幸村を前には何も言えなくなったようだ。
(まったく……)
 過保護もいいところだ。
 第一、奥州筆頭と天覇絶槍が揃って何事があるというのか。
 それに、いらないと言っても護衛の者もついてきているのだろう。
 二、三歩先を歩いていた幸村がくるりと振り返り、楽しそうに笑った。
「その出で立ちでもやはり政宗殿は目をひきますな」
「コレがあるからか」
 眼帯を軽く抑えると、同じような姿の幸村はふるふると首を振った。
「政宗殿は、なんというのでござろうな……自然と目が向くのでござるよ」
 くすくすと楽しげに笑う幸村の、長い後ろ髪が揺れる。
(それはおまえだろう)
 常に戦場の混乱の真ん中で舞い咲く戦花。
 二槍の炎を花弁のように散らし、群れる敵兵を討ち滅ぼす。
「………」
 団子っ団子っ、と即興的な節をつけて唄いながら今度は横を並んで歩く幼さすら感じられる男が、戦場では修羅の如き働きをすると、この往来の誰が気づけるだろう。
「そんなに団子が好きか」
「団子も饅頭も煎餅も大好きでござる!」
 子供のように好物を菓子で並べ立てて、目をきらきらさせながら幸村は笑顔を向けてくる。戦場では鬼気迫る勢いで駆け巡るのと同じ顔で。
(すげえgap……)
 呆れながらも、どうも可笑しくて笑えてくる。
 今の幸村も、戦場の幸村も、嘘偽りなき一本気なところは同じ。
(何故だろう)
 幸村は、自分を裏切らないと――信じてしまえるのは。
 国同士の同盟を結んだ今に至るまで、この男が立っていたのは己の正面だというのに。
「政宗殿?」
 黙ったままの己を不思議に思ったのか、幸村がことり、と首を傾げて顔を覗き込んでくる。
 なんでもない、と首を振り、茶店へと促す。
 おお!と歓声をあげた幸村は店へと駆け込み、早速なにやら注文していた。
 店先に出された長椅子に腰掛け、一息つく。
 中から聞こえる幸村と店主との会話はとても平和で、それが今の奥州を表しているように思えて、胸の奥がほんのりと暖かくなる。
 自分は、この平穏を守りたくて戦っているのだ。
 民の暮らしを守れている、その自負が己の力の源。
 この成果が己の存在意義。
 そのために払った犠牲は少なくない。
 奥州は豪族の集まりで、そのほとんどが親戚、縁戚だ。それ故、まとめ上げるのに非道な手段も必要にもなったし、政宗自身も、――。
(…………)
 ぴん、と心の琴線に触れる気配に、物思いにふけた意識が現実に戻る。
「政宗様」
 背後に知った護衛の者が立っていた。
「……どういうことだ」
 低く問いかける。
 背には、短刀だろう、鋭い何かが当てられていた。
 



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城下町おデート編……の予定、でした。
あれ?筆頭がこんな目にあう予定は……まだなかった……んだけど……!
もっと幸村といちゃくらしてからの予定だったんだけど……!

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