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11.07.16〜


「あっちぃ……」
 ぐったりと板の間に寝そべるのは、日頃は泰然とした姿勢を崩さない竜だ。
 僅かな涼を求めて、冷えた床をずるずると這っていく様は……竜というにはあまりに威厳がない。
 しかしそれも仕方がないだろう。
 避暑になりそうな奥州を襲う、太陽の輝き。
 安芸の日輪を崇める知将なればともかく、暑さに耐性のない奥州筆頭はすっかり参ってしまったようだ。
「おい、暑すぎるだろ!」
「某に言わないでくだされ」
「うー……」
 ごろん、と転がった政宗はまた一つ部屋の奥へ。
 風を求めて縁側近くに最初は寄ったが、風よりも吹き込む熱風に一つ部屋の奥へ転がり、自分の体温でぬくくなった床が気持ち悪い、とまた部屋の奥へごろり。ごろり、ごろり、と転がった先は、もうすぐ壁に至る。
 そうなったら政宗殿はどうするんでござろうなあ、と一連を見守った幸村はぼんやりと思った。
 こんな暑い日中でも、政宗の右腕たる小十郎は畑仕事に向かったらしい。野菜たちは口がねえから暑いだの苦しいだの言えねえから、こっちから世話してやらねえと――などと言っていたが、なるほど、暑い暑いと煩い程に繰り返されるのを聞いていると、無言の生き物たちが心配になるのも判るような気がする。
 何よりも、奥州筆頭がこのような有様では政務も軍議もろくに出来ないだろう。
 折角の休みをこのようにぐだぐだと過ごすのは勿体ないとは思ったが、目の前でついに壁に当たった政宗が、深々と溜め息を付きながらのそのそと身を起こすのを見ていると、もはや苦笑しか生まれなかった。
「あっちぃ……汗で滑りやがる」
 言いながら政宗は後頭部で結わいた眼帯を解いた。
「………」
 疱瘡の疵痕を濃く残す右目を隠す眼帯を、政宗は滅多なことでは外さない。
 共に湯に浸かったこともあるが、顔を洗うその時だけしか外さなかったというのに、この暑さは政宗からその躊躇すら奪ったというのか。
 ――なんだか、無性に面白くない。
 むくりと頭をもたげた苛立ちに、幸村は立ち上がる。ずかずかと歩み寄り、政宗の後ろに回った。
「どうした、真田幸村?」
 外した眼帯を手に振り返ろうとする政宗の頭をがしりと掴んで正面を向かせる。
「おい!」
「お暑いのでしょう。その御髪をまとめれば少しはマシかと」
 己の茶髪をまとめた髪紐を解き、口にくわえながら政宗の黒髪に手をかける。
 やや硬質の政宗の髪は普段ならばまとめにくいだろうが、今は汗の湿り気のおかげか思いの外容易い。
 顔にかかる横髪も首筋を覆う後ろ髪もすくい上げ、後頭部で一つに束ねて、くわえた紐できりりとまとめあげた。
「お、本当だ、首筋に風が通るって気持ちいいもんだな」
 襟をぱたぱたとさせながら、政宗は嬉しげに声を弾ませる。
(…………)
 しかし、幸村は。
 普段目にしない首筋から目が離せない。
 ――どくり、と胸を打つ拍が一つ。
 普段ほとんど見えない右側の顔立ちが後ろからでも伺える。
 ――どくり、ともう一つ。
 政宗の端正な姿は今までよくよく見て来たつもりだったのに、まだ知らぬ面がある。
 それを引きずり出したのが己ではなく暑さに起因するというのはやはり面白くはないのだけれど――触れてみたいと湧く衝動は、己も暑さにやられてしまったのだろうか。
(さあ)
 この人をこれから抱きしめたら、どんな反応をするだろうか。
 己から滅多と触れぬから、驚くだろうか、それとも暑いとひっぺかされるか、――それとも。
(どれであれ)
 ――熱くさせるのは己の専売特許のはずだ。

 淡い微笑みを唇に浮かべながら、幸村はゆっくりと腕を持ち上げた。
  

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すいませんすいません1年と2ヶ月も拍手お礼文放置してました本当にごめんなさい!

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