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11.05.31〜


※現パロ:守護霊筆頭×鈍感幸村です






 自分には生まれた時から幽霊がくっついているらしい。
 らしい、というのは自分では全く判らないからだ。
 どうやら力の強い?幽霊らしく、いろんな人にいきなり驚かれたり、動物には吠えられたり逃げられたりする。
 だからといって、別段気にしなければ何ともないし、生活する上で差し障りがあるわけではない。
 まあ、そのうち逢ってみたいなあ……などと思いつつ、気づけば十数年が過ぎていた。

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「憑依霊、ですか?」
 突然街で声をかけられて喫茶店に連れ込まれた。
 決してアイスコーヒーおごるから、という言葉に釣られたわけではない。
 異常気象で地面から陽炎がたちのぼるのが見えるほど暑かったからというわけではない。
 でも、折角の厚意だからアイスコーヒーはクリームソーダに変えてもらった。
 この暑い最中にスーツを着込んだ男は声を顰めながらも勢いこんで話しかけてくる。
「貴方、ほんとうにとんでもない霊に憑かれてますよ! 今まで無事だったのが不思議なくらい! でも安心してください、この数珠を常に手首にまいておけば、どんな強い悪霊でもたちまちに退散するのですよ!」
 アタッシュケースから木の箱に入った数珠を取り出した男は満面の笑顔だ。
「ほら、よく街でも見かけるでしょ? 手首に数珠巻いてる人! あの人たちも貴方と同じような悩みを抱えて私どもに駆け込んでこられたんです。いやあ、偶然貴方をお見かけして、これはお力にならねば!と思ったんですよ!」
 数珠を向け、しゃべり、合間にアイスコーヒーを飲む。
 男は非常に器用だった。
「はあ……」
 憑かれてるだの悪霊だの言われても、いまいちピンとは来ない。見えないし感じないものをどうやって恐れろというのだ。
「ほら、最近肩がこったなあ、とか、そういうのありません?」
「……そういえば……」
 妙に肩が張ることがある。
 小さく頷くと、男は、そうでしょう!とまるで叫ぶように言って身を乗り出してきた。
「この数珠、得の高ーいお坊様が幾日も幾日も祈りをこめて出来上がるものでして大変貴重なものなのですよ。ですが、御客様は見たところ学生さんですし……ここは一つ、ローンのご検討をいただけたら……」
「ローンですか……」
 小遣いの自分にはなかなか縁のない言葉だ。
「大丈夫! 月々の分割払いの金額はご相談に乗らせていただきますよ!」
 にこにこ顔の男は早速とアタッシュケースを探って書類をとり出してくる。
 これはいけない。
 このままだと勢いのままに書類にサインさせられてしまう。
 ここは一つ退散しよう、と鞄から財布をとり出してクリームソーダ代を置こうとして……気づいた。
「あれ」
 財布がない。
「え、え?」
 財布にはIC定期券も入れている。間違いなく朝改札を通る時に使ったのだから、ないはずがないのに。
「あれ? え? なんで」
 鞄の中をひっかき回して探すが、二つ折りのボロい財布はどこにも、影も形もない。
 まずい、定期も財布もなしでは帰れないじゃないか。
「……どうなさったのですか?」
 いきなりわたわたと慌てだした自分に、男は躊躇いがちに声をかけてきた。
 ばちり、と合った視線。
 ――ここで出会ったのも何かの縁だ。
「すいません! 電車代貸してください!!」
「は、はあ?」
「定期も入れてる財布落としたみたいなんです! 1000円ほど貸してもらえませんか!?」
「はあ?」
「あ、帰ったらこの名刺にお電話しますんで! すいませんがお願いします!!」
 がば!と机に手をついて頭を下げる。
 その勢いに、男は「はあ」としか言えなかった。


 1000円札1枚を借り、結局クリームソーダ代はおごってもらい、そのまま喫茶店の前で別れた。
「まずいなあ……明日からどうしようか……」
 小遣いも全部いれっぱなしの財布だ。溜め息をつきながら、借りた1000円を鞄のポケットにしまおうとして鞄を開け――
「え?」
 鞄の一番目に入るそこに、ボロい皮の二つ折り財布がでん、と鎮座しているではないか。
「え、なんで?」
 さっきあんなに探した時には見つからなかったのに。
 引っ張り出して中を見てみると、もらったばかりの小遣いも定期もきちんと収まっている。
 どうも探し方がまずかったのだろう。灯台下暗しとはよく言ったものだ。
 ほっとしながら携帯を取り出し、もらった名刺の電番を打ち込んだ。
 別れたばかりだ、どこかで落ち合えばこの1000円もすぐに返せるだろう。
 だが、耳に入ってきた音声案内は「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」というメッセージ。
 リダイヤルで番号を確認しても、名刺の通りの番号だ。
「おかしいなあ……」
 首を捻りながら、もう一度リダイヤルして携帯を耳にあてながら、駅へ向かって歩き出す。
 日が陰って涼しくなった風が、どこか溜め息のような音を立てて耳元を吹き抜けた。



(ったく、アンタはほんとに目が離せねえなあ……)




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突発的に思いついた現パロで、守護霊筆頭×鈍感幸村でした。
結構評判良かった!嬉しい!

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