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10.09.02〜



 我慢ができなかった。

 夕立の激しい雷雨は彼の異称を。
 夜空の月は彼そのものを。

 そんなものたちに毎日毎日毎日毎日!かこまれていてはもう堪らない。

 苦しくて。
 愛しくて。
 もう息が詰まってしまう。

 だから。

「ちょ、旦那あ!?」

 喫驚する忍びの声など愛馬の後ろ足で蹴飛ばして。
 一緒に躊躇いも責務も全部放り出す。

 この暑さが全て悪いのだ。

 身を焼くような暑さは、対峙したときの熱さそのものなのだ。
 もういてもたってもいられない。
 走れ。走れ。
 少しでも早く。
 僅かでも前に。北へ。北へと向かって。

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「……で、飲まず食わずでこの暑い最中をぶっ飛ばしてきて、城門の前で生き倒れたわけだ」
「ううう……」
 冷えた手ぬぐいを額に載せながら苦笑を浮かべる隻眼に口ごもる。
 手際よく介抱する手が嬉しくも申し訳なく、何より決まりが悪い。
「お忙しいのに申し訳ない……」
「いや? 今日のNormはclearしてあるからな、アンタにずっと付いていられる」
 政務も何もかも放り出してきた自分とのこの差は、国主としての器の差か。
 そう思うと己が情けなく幼子のように布団に入り込んでしまいたくなる。
 しかし腹に掛けてもらった上掛けは薄くて潜り込んだところで丸見えのようだろう。
 恥ずかしい。
 だからせめてと目をきゅ、とつむった。
 小さく笑う気配。それとともに、ひんやりとした指先が額にかかる髪を払うように梳いた。
「……Thank you、Honey」
 低く囁く声は、視界を閉ざしているからこそより鮮明に耳に届く。
 だからこそ気づけた、その声が含んだ小さな喜色に、ちろりと目を開けた。
 柔らかく緩んだ隻眼の目元。弧を描く口元。
「………」
 抜き身の刃のような、キリキリと弦を張った弓のような印象の彼が見せる、普段と違うその甘やかさ漂うその表情。
 それを見られただけでも、夜討ち朝駆けの勢いで突っ走った甲斐がある。
(だけど)
 たまらなくなって、無駄と知りつつ上掛けを頭から引っ被った。おい、と慌てる呼び声は無視だ無視。
(だって)
 そんな……そんな嬉しそうな顔をされて、どうして普通の顔をしていられようか!
 きっとその倍は嬉しさに崩れたみっともない顔になる、そんなもの見せられない!!
「幸村?」
 布団をぐいぐいと引っ張る無情な手に抗いながら、熱くほてった顔が早く元に戻るようにと必死に祈った。


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9ヶ月程頑張ってくれた拍手お礼文です……


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