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※捏造梵×弁
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ずるずると黒い沼地に足を取られて、底へ底へと引きずり込まれる。
(夢だ)
きっとこの沼は病。死そのもの。
この沼に沈みきった時に、己の命は絶えるのだろう。
(死ねない)
死にたくない。
もがく。必死にもがく。へどろのような汚物のような、とにかく気持ち悪いぬめぬめとしたものが腕を絡めて足を取り、顔にへばりついてその臭気とおぞましさだけでも気が遠くなりそうだったが、とにかくもがいた。
どんどんと沈み行く己の身。
「畜生!!」
腹から叫んだ。
死ねない。絶対死んでなどやらない。
――梵天丸様!
声が聞こえるのだ。
――梵天丸様、梵天丸様!!
温もりを感じるのだ。
(弁丸が待ってる)
きっと泣いてる。泣くなと笑いかけてやらなければ。
あの大きな目が、涙をはらって笑みに変わる、それを見たい。
汚濁が頭を飲み込もうと這い上がってくる。払っても払ってもそれはしつこくまとわりつき、ついには右目に染みこんできた。鼻と口を押さえても、何故か右目だけは庇えず、激痛が走る。
叫んだ。伊達の長子としての矜恃をかなぐり捨てて、吠えるように。
とぷん、と頭まで沼に沈んでしまった。
(――弁丸!!)
心の中の絶叫は届いただろうか。
応える声があったか……それは直後意識が闇に飲まれてしまい、わからなかった。
目覚めた時、あまりの明るさにここがどこかわからなかった。
しかし顔を覗き込んでいた弁丸と目が合った途端、生きているのだと理解した。
「ぼんてんまるさま!!」
かすれきった声。くまを作った目元。しかし両手でしっかりと己の手を掴んでいる。
ずっと感じていたぬくもり。
(やっぱり、おまえが)
尋ねようとして、しかし、ぼろぼろと両目から涙を落としながら満面の笑顔を向ける弁丸に何も言えなかった。
(それが見たかった)
その笑顔が見たかった。
ただ、あまりに泣き続けるので、泣くなと手を伸ばした。
涙を拭いたかった。
しかし、その手が空を切る。見えたままに手を伸ばしたのに、弁丸に届いていない。
そういえば、視界が狭い。右の方が見えてない。
右目がおかしい。布でおさえられて開くことができない。
伸ばした手で右目を触ろうとして、慌てたように弁丸に止められる。
「いけませぬ、まだ肌が固まっておりませぬ!」
肌? 固まって?
なんのことだ。
そのまま指を右目へと伸ばすと、まず触れたのは布。
そして、激痛。
「梵天丸様!!」
苦痛に呻き、思わず掻きむしりそうになった己に弁丸が叫んで、ものすごい力で手を剥がして掴む。
「離せ! 離せ弁丸!!」
「なりませぬ!!」
「なんなんだ! 目が! 右が!!」
「梵天丸様!」
「痛い!!」
傷口に塩を塗り込む以上に鋭いくせにじくじくとした痛みが脈動ごとに酷くなる。
何なんだ、この痛みはなんだ!
騒ぎを聞きつけた大人たちが駆けつけ、押さえつけられ、無理矢理薬を飲まされて寝かされた。
再び目覚めた時、弁丸は部屋の隅に押しのけられ、大人たちにぐるりと囲まれていた。
身体を引き起こされ、顔に巻かれていた包帯をむしられた時、その大人たちはあからさまなため息をついた。顔を背ける者もいた。医師だけが淡々と顔に膏薬を塗りつけて再び包帯を巻いた。
大人たちはそれからほとんど無言で立ち去った。
それを弁丸はぺとりと両手をつき、頭を下げて見送った。
暗い暗い、部屋の隅。
弁丸は大人が姿を消してから、ようやく這うようにして自分の傍へと戻った。
「俺の、右目は」
「……盲いられました」
ぽつりとした答えに、そうか、と一言だけ返した。
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相変わらず暗い……orz
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