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<6−1>
 城に戻り返り血を浴びた着物を脱ぎ捨て、湯を浴びる。
 穢れを落として自室に戻ると、渋面の小十郎が控えていた。
「真田から話は聞きました」
「Ah……なら俺からする話は特にねえな」
「政宗様!」
 鋭く叱咤する声に、思わず肩を竦める。
「何故、斬り捨てられたのか……いや、そもそも、何故簡単にその命を投げ出される!」
「あいつから得られる情報はない。その確認はおまえのことだ、もうすませたのだろう?」
 こともなげに答えると、小十郎は眉間の皺を深くしながらも頷く。
「何かに通じる証になりそうなものは、本人も周辺からも全く……」
「なら、あの場で斬っても変わらない。あいつは拷問程度で吐く奴じゃねえことはおまえも知っているだろう?」
 長く護衛をつとめた男の性格ぐらい、己もそして小十郎も知っている。
 元々忠義に厚く、口も堅い男だった。信用できる男だった。だから、長く護衛役を勤めてもらっていたのだ。
「……政宗様。もう一つの問いには答えていだいておりませぬ」
 真摯な眼差しを向けられ、それから逃れるようにわずかに視線をそらした。
「………投げ出したわけじゃねえ、術がなかった、それだけだ」
「懐剣をお持ちでしたでしょう」
「あんなオモチャ一つで何ができる?」
 両手をあげて肩を竦める、南蛮人のactionを真似てみると、バン、と小十郎は床を平手で叩いた。
「他の誰でもない、貴方様ならば!! 懐剣一つあれば、たとえ囲まれたとしても突破できなさるでしょう! 現に、真田は串ひとつで貴方様を救った!」
「ああ、あれはamazingだったぜ? あいつ、食った串大事にとってたんだな」
「その場にある何でも武器にして生き延びようとする、そこは見倣っていただきたい!!」
 笑って答えると、その空気すらも吹き飛ばす勢いの怒号が飛んできた。
「政宗様の命は奥州そのものなのですぞ! そのご自覚が足りてはおられぬのか!!」
「あー……I see、わかったよ、ちゃんと気をつけるからよ」
 戦場の幸村の名乗りよりも遙かにやかましい小十郎の叱責にいい加減辟易してきて、ひらひらと手を振り小十郎に背を向ける。
 小十郎が室を出ないのならば、己が出ていけばいい。
 幸村の部屋に行ってもいいし、空いてる適当な部屋で休めばいいのだ。
 これ以上、小十郎の小言など聞きたくはない。
「…………」
 小十郎は、背後で重くため息を落とした。
 ざり、と衣擦れの気配が低いところからする。
 振り返らなくても判る。小十郎が床に額付いているのだろう。
「……どうか、お願いです。御身を大事になさってください。貴方様は決して死んではならないお立場……奥州のすべてを背負う方なのですぞ……!」
 血を吐くような訴え。
(……Shit……)
 なまじ怒鳴られるよりも、こうやって静かに言葉を与えられる方がクる。
 奥州筆頭としての誇り、存在、在り方。己の価値。
 小十郎にはこうやって教えられる。
 もとより自負はあるが、より強い自覚を促される。
「……All right、判ったよ小十郎」
 ち、と舌打ち混じりに応えると、ようやく小十郎は顔をあげて、あとは何も言わずに静かに退出していった。
 その姿に背を向けたままで、見ることはない。
 小十郎は心から己を心配している忠臣だ。
 背後を任せられる唯一の男だ。
(……だが)
 あの刺客の男も……信じていたのだ。
 小十郎は決して己を裏切らない。
 確信すらある。
 万が一、己を害せよと命じられたならばその命じた相手を殺して己も死ぬような、そんな古くさい仁義を貫くだろう。
 そこまで判っているのに。
 今は。
「……Shit!!」
 今は、小十郎すらもまともに見られない。
(弱え……)
 己の心根の脆弱さを目の当たりにするのは、決して愉快なことではない。
 こんなことで奥州筆頭と言えるのか。
 こんな弱い男が伊達宗家を継いで、奥州をまとめあげていていいのか。
 列強からこの奥州を守りきり、そして天下を手に入れようなど、ただの夢見がちの子供の戯言ではないのか。
 しかし、この背はすでに、奥州を背負っている。
「………」
 重責を投げ出すわけにはいかない。
 この重荷を背負うと決めたのは、他でもないこの己自身だ。
「……畜生!!」
 思わず吐き捨てた途端、戸口でコトリ、と小さな音がした。
 はっと振り返った先には、戸口で戸惑ったように表情を困惑させた幸村がいた。


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格好いい筆頭好きな方ごめんなさい……
私が主人公に据えるキャラはもれなくネガティブ路線大爆走するんです……あああああorz

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あきゅろす。
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