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 甲斐との同盟を経て、真田幸村が奥州へ来ることが頻繁になった。
 幸村は武田軍最強の騎馬隊長であり、信玄の近習であり、そして仮にも上田の城主。
 奥州を統べる自分ほどではないにしろ、そうそう自由になる時間があるとは思えなかったが、書状だの、ご機嫌伺いだのと、ちょくちょくとやってくる。
「おまえ、そんなに暇なのか」
「お館様は奥州から学ぶ事も多かろうと」
 胸に抱いた疑問をぶつけると、すっぱりと答える幸村の目には戦意がある。
 こちらに暇さえあれば「手合わせを!」と吼える幸村に、思わず傍らの忍びへ「もしかしてオッサン、こいつの手合わせ癖にちょっと疲れたとか?」と尋ねたら、沈黙と遠い目で答えられた。
(ああ、そうかいそうかい)
 自分とやりあったことで燃え滾った幸村を、流石の信玄も持て余したということだろう。
 上田の方も、元々幸村は躑躅ヶ崎館に詰めていることの方が多いということで、城代を置いてあるらしい。
「某、政はとんとわかりませんから!」
 しれっと答えて開き直る幸村に、少しばかり奥州の厄介事を回してやろうかという気になったりもしたが、自分に対して真正面からやり合おうとする幸村のことは政宗も大層気に入っていた。
 しかし、だ。
「片倉殿!!」
 畑から戻ったのだろう、作務衣姿の小十郎を見つけた途端、幸村は駆け出した。
「お疲れ様でござる! 野菜の出来はいかがでした!?」
 目をキラキラさせながら小十郎に声を掛け懐く姿は、犬のよう。
 ――正直、面白くない。
 幸村は誰もが認める、自分の、この政宗の好敵手だ。
 しかし、あの小十郎への懐きっぷりはどうだ。尻尾があれば、間違いなく勢いよく振っている。
「冬のお野菜でございますな!」
「ああ、こいつは唐渡りの野菜でな……」
 小十郎も小十郎だ。竜の右目と呼ばれる自分の側近中の側近。柄の悪い伊達軍でも恐れられる存在でありながら、なんだ、その幸村に向ける笑顔は。
 何かを小十郎が幸村にささやいた。ぱっと顔をあげた幸村が、こぼれんばかりの笑顔を向ける。
 そして二人で声をたてて笑う。
(なんなんだ!)
 その仲睦まじさは!!
 そもそも、小十郎が真田幸村をこの城内に受け入れたあたり、驚いたものだ。
 同盟を結んだとはいえ、他国の武将。けっして客将というわけではない。
 閨に上がる女ですら詳細に調べ上げるほどに警戒心の強い右目が、寝首をかきそうな他国の将とその忍びを歓迎するとは意外を通り越して喫驚。
 つまり、それほど小十郎は真田幸村を気に入っているということだ。
 ――なんだか、無性に面白くない。
 イライラした気分を持て余しながら、政宗は二人の笑い声に背を向けた。


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あきゅろす。
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