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奪われた所有権(※流血注意!)

 地に落ちた二槍、傷一つない蒼竜の姿に、己の敗北を悟った。
「生きて俺の物になるか、死んで俺の物になるか、どちらか選ばせてやる」
 結わいた髪の根元を乱暴に掴んだ竜が不遜に笑む。
(生死を選べと)
 敗者に言い放つなど、なんと残酷で傲慢なのだろう。
(ふざけるな)
 生きたいに決まっている。
 生きていれば、いつか活路を見いだすこともあるだろう。
 死ぬことなど、すべての可能性の放棄だ。
 生きて生きて、生き抜いてやりたい。
 しかし、こうやって身動き出来ぬほどに捕らえられては――。
 獣のような生々しい覇気をみせるその隻眼にうつるのは獰猛な光。
 口元から覗く、白い牙のような歯が、その気になれば己ののど笛を噛み切るだろう。
(おのれ……)
 情けをかけるつもりか。
 それとも、生への執着をあざ笑って叩き切るつもりか。
(思い通りになどなるものか)
 ならばいっそのこと、自害して果ててやる。
 噛みしめた唇を解き、素早く歯の間に舌を差し込む。
 一思いに噛み切ろうとあごに力を入れた瞬間、ぶつと何かを破って口の中に鉄さびの味が広がった。
 痛みは、ない。
「この、野郎……!!」
 歯に挟んだのは、政宗の右手。
 人差し指中指薬指の第2関節近くまで突っ込まれて舌が奥へと押し込まれてしまった。
「ぐ、っ!」
 喉が詰まり、噎せ込むと同時に他人の手が口外へと出る。
 べしゃり、と吐き出した唾に混ざるのは、鮮やかな赤。
 政宗の血。
 くっきりと歯形のついた血が滲む指を、政宗はじとりと舐めた。
「行儀の悪い奴には……お仕置きしてやらねえとなぁ!? ああ!?」
「うあ、ッつ……!!」
 髪の根元を下に向かってきつく握られて、勢いあおのかされる。
 ぎちぎちと揺さぶられ、髪をひっぱられる痛みに思わず呻いた。
「言っただろうが、てめえが選ぶのは生きて俺の物になるか、死んで俺の物になるか、だ……勝手に死ぬことなんざ許しちゃいねえんだよ」
「ぐぅ……!」
 仰向くことで、喉が政宗の眼前にさらされる。
 しまった、と思う暇もなかった。
 目に映るのは、金とも見まがう竜の目の残像。
「う、ああああ!!」
 喉元に噛みつかれ、走った鋭い痛みに一瞬死の影を感じて絶叫した。
「……うるせえ」
 低いつぶやきと同時に逆手で口をふさがれた。じわじわと舌先に上る血の味。未だ止まらない政宗の指から流れる血が隙間から口内へと染み込んでくる。
 首を振って手を離そうと試みるが、六爪握る大きい手にがしりと捕らえていて、さらに上を向かされる。
 無防備に曝された喉に、再び竜が牙を剥いた。
「……っぅ、んく……!!」
 鋭い歯が喉の薄い皮膚を破る。
 そこから胸へと流れ落ちるぬるりとした生暖かいものは己の血だが、酷く気持ち悪かった。
 その感触と痛みに顔をしかめると、ゆっくりと政宗が口を離し、目を細めて見た。
「やっぱりおまえには赤がよく似合いやがる……」
 ぺろり、と血に濡れた唇を舐めるそのさまは、竜というよりも野生の狼。
 ぬめるような輝きを放つ瞳に息を飲む。
 政宗は再び顔を伏せた。
 咬み痕から流れる血の跡を消すように、柔らかくぬれたものが肌の上を滑った。
「っ……!」
 ぞく、と身のうちを走った刺激に息を飲む。
「……飼いならされた虎は流石にいい味してるなあ?」
 ゆがめた口元を染めるのは、己の紅血。
 ぺろり、と舐めとる舌がひどく卑猥に思えて、幸村は思わず目をそらす。
 政宗は喉奥で小さく笑い、ゆっくりと身をかがめながら、口を押さえる手をずらして顎を捕らえ、無理矢理に自分の方へと向けた。
 視線が重なる。
「……っ……」
 細めて鋭さを増したまなざしに思わず射すくめられて、動けない。
「……選択肢のどちらも取らず、死を取ろうとしたおまえに、もはやおまえ自身の所有権なんざねえな」
 鼻先をかみつくほどに近くまで顔を寄せて、独眼竜は酷薄に笑う。
「おまえの全部は、俺のもんだ……You see?」
 目をきつく見開いた幸村の、政宗の血に濡れた唇に、幸村の血で染まった唇が食らいついた。
 

 

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「囚われの選択」を書く前に、一度書き上げていた被狐狸迷住(キツネツキ)案山鳴様イラスト喚起SSですが、
差し上げたいと思いつつもこんな流血殺伐小説はどうだよと思ったのと、イラストタイトルと合致しない内容にorzとなりまして、書き直したものが「囚われの選択」でございましたw
(だから出だしとか中身がかぶっているのです)
書いたものをお蔵入りに出来ない性分なので、公開させていただきまするー。




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