誘う眼差し
最初にひきつけられたのは、眼差しだ。
戦場に不似合いなほどに鮮やかな紅の戦装束や、振るうごとに炎をまとう二槍、極々わずかな隙を突く技量には目を見張るものがあったが、何より心を浮き立たせたものは、鋭い剣戟の合間に覗く、その眼差しだ。
これほどまでに自分を「見る」ものなどいなかった。
失った右目をそれとなく外そうというのか、微妙に揺らぐ視線。
人の目というのは、そういうものだ、と思っていた。
だが―――
「いいねいいね、真田幸村!」
そのStraightな眼差しは、灼熱をぶちこまれるかのようで、隻眼ひとつから心の臓にまで至って、血潮が頭の中から爪先までを駆け巡り、その熱に支配されるかのような錯覚すら感じた。
刀と槍とがきつく結びあい、高く響かせた刹那、全く同じTimingで間合いを取る。
その嵌まり具合が一層に気持ちよさを煽る。
相手の呼吸が乱れ始めているのが見て取れた。
しかし、それでも眼差しの強さは変わらない――否、より強く、より熱くなっていく。
「Ha――――」
口が、自分の思惑を超えて笑みを形どった。
熱が、互いの獲物が交錯するごとに高まっていく。
未だかつて、感じたことのない高揚感。
(これが、“得難き好敵手”ってやつか――!)
ああ、出会えた。巡り合えた。戦国乱世のこの時に、相対する武人として!
容赦ない剣戟、熾烈な槍捌き。一瞬の隙などまだ甘い、半瞬できっとこの命は吹き飛ぶ。そんなギリギリのTension。
一撃ごとに、新しい何かを得ていくようなexcitingな刺激は、いっそ麻薬のようなものかもしれない。
(昇っていく)
さながら蒼天目指して駆け上がる竜のように、意識が高みへと昇りつめ、拡散する。
奥州? 甲斐? 天下? 日の本の国?
(小っせえ)
今ならば、この蒼天全部が自分のものであるかのようだ。
いや、きっと手につかめる。この紅蓮の炎が在るのならば。
拡がった意識のどこかで、軍の状況を捕らえた。
深入りしている一軍。ああ、あいつら、このままだと分断されんぞ。そうしたら、少々厄介だ。
戦に負けるわけにはいかない。
この男と、これからもやり合うために。
「小十郎!! 引き上げだ!!」
一際大きく間合いを取り、声を張り上げると、しっかりと控えていた側近はすぐさま各方面に指示を出し始めた。
「お逃げになるか!」
二槍を構えたままで幸村が吼える。
その猪突猛進な姿までもが好ましくて、くっく、と喉で笑う。
ああ、おまえは本当にどこまでもまっすぐだ。
「突撃するだけが戦じゃねえよ。引き際が肝心なんでな――それじゃあな、My Dear! 俺とやるまでその首捕られんなよ!」
おまえが来るなら、引いてやる。引いた俺を――今度はおまえが追うがいい。
小十郎が連れてきた馬に飛び乗ると、馬首を幸村の逆へと向け、一気に全力で疾駆する。
背に感じる、強い強い視線。
ああ、なんて心地良い。
「政宗様」
「Hey、小十郎。楽しかったぜ? このPartyはよ」
呼びかけに上機嫌に答えると、片腕は軽くため息をもらして、ほどほどに、と呟いた。
「Ha!」
高らかに嗤う。
ほどほど?
あの紅蓮相手にか?
そんな手加減をしてみろ、一瞬で焼き尽くされるぜ。
(さあ、来い)
俺の元へ。
炎の紅虎――。
永い勝負はこれからだ。
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BASARAにハマり始めた当初、ミニブログで仲良くなった方のイラストを拝んだ折り、幸村の目線が印象強くて、「書きたい!」と思い立ち、めずらしく一気に書き上げた初BASARA小説。
貢ぎ物といたしましたが、先方がサイト改装中の為、先に自サイトで掲載させていただきます。
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