雪降る日。
冬も半ば、そろそろストーブでも調達しようかと考えながら ぼんやりと紅茶を飲んでいると、慌ただしい足音が聞こえた。 途中、小さな悲鳴が聞こえたが、大方足を引っ掛けて転んだりでもしたのだろう。 …相変わらず進歩のない人。
「恭弥!」
「何、昼間っから騒々しい」
勢いよく戸を開けたその外国人は、子供みたいに瞳を輝かせて、
「雪だっ!」
そう 嬉しそうに微笑んだ。
「ほらほら恭弥! すっげー積もってる!」
真っ白い大地に足跡を残すようにやたらと歩き回る。 全く、何がそんなに楽しいのか。
「…」
吐く息が白い。 降り続く雪は当分止みそうになく、どこか気が遠くなるような感覚に目眩がしそうだった。
触れては消える淡雪。 こんなにも儚くて脆い。
「な、雪だるま作ろうぜ! 雪だるま!」
「…は?」
何を言い出すかと思えば、呆れるほど単純な発想だ。 本当にマフィアのボスなのかと時々思う。
「そんなの一人で勝手に…」
「よし、恭弥は上な!」
「…。」
完全無視。
--全く、どうしてこうもこの人は、人の話を聞かないのか。 頭が痛くなる。 というか、疲れる。
仕方がないので足下の雪を集め、手のひらサイズの雪玉を作ってやる。 結果、当然と言えばそうだが 完成された雪だるまはそれこそ雪だるまと呼べる代物ではなかった。 バランスとかそれ以前に下の雪玉が歪過ぎたので、僕の責任とは言わせない。
それでも、ディーノは実に満足そうに 雪だるま擬きを眺めた。
「ねぇ、そんなので良いの?」
「いーんだよ、形なんて大体で」
「あ、そ」
…大体、と言える程の出来でも無いように思うけど。
(…形、か)
--形有るものはいつか必ず壊れる。 形無きものは心の何処かにそっと刻まれる。 それは"思い出"だと きっとあなたは言うのだろう。
(まぁ、悪くは無いかな)
決してあなたには言わないけれど。
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