微笑う こと。
「神田、居る?」
少し遠慮がちにドアを叩く音。
手にしていた本を置き、ゆっくりとドアを開ける。
「ラビが帰ってきたの」
視線が合うなり、リナリーはそう切り出した。 神田は僅かに眉をひそめる。
「ラビ、…微笑ってたわ」
「…」
--それが何を意味しているのか。 分かってしまうのは慣れてしまったからだろうか。
軽い溜め息をついてから、神田はその場を後にした。 リナリーの真っ直ぐな瞳が、暫くその背中を見つめていた。
「おい」
「! ユウ…」
廊下の片隅に寄りかかっていた体を起こし、ラビは取り急いだ笑みを見せる。 神田がうざったそうに舌打ちした。
「バレてんぞ ソレ」
「…、」
途端にラビの表情が曇る。
「上手く 微笑えてたつもりだったんだけどな」
その声は 今にも泣き出しそうな程に弱々しくて。
「…バカが」
吐き捨てるように 神田はそう呟いた。
突きつけられた現実に 目を背けてはいけないから。
無理にでも微笑っているのは 前に進む為だと。
(…違うんだ 本当は)
(オレは、ユウが居ないと泣くことさえ出来ない)
途方もない感情の行方。
無料HPエムペ!