rain
「日本ではこの時期"梅雨"って言うんだろ? ユウ」
「だったら何だ」
「ん? 別にぃー…ただ」
--今頃、ユウの故郷では雨降ってるんだろうなって。
これは、去年の6月6日のアイツとの会話。
あれから また一年の月日が過ぎた。
「--今回もハズレだ」
「うん、ご苦労様」
任務を終えた帰り道、ファインダーの背負う電話を通し いつものように滞りなく報告を済ます。
実際、任務ではアクマの関わりこそあれ イノセンスの回収率は低い。 だから大抵はこのやり取りの繰り返しだ。 ここでコムイが次の任務を提示しなければ、一旦教団本部に帰る事となる。
「で、この後なんだけど…」
「帰ってきて良いってさー!」
…不意に、あの馬鹿兎の声が聞こえた。 言いかけたコムイの声が綺麗にかき消されている。
「何だよ、何か用か?」
「ユウの声聞くのも二週間と三時間十二分ぶりさー、あ 溜め息つかない!」
こっちはアクマと戦ったばかりだというのに、なんて考えると 思わず溜め息だってつきたくなるものだ。
…別に苛つきはしなかったが。
「だから、用が有るならとっとと…--」
--ポツ。
頬を、優しく何かが伝った。
「…ユウ?」
雨。
先程から雲行きは怪しかったが、遂に降り出したようだ。
ポツ、ポツ、と不定期に雨露が落ちる。
「…ああ、雨降り出したんだ」
「聞こえんのか?」
「いーや、ブックマンのカンてやつ?」
何だそれは、とも思ったが深くは追及しない。
「雨、気持ちよさそうさ」
--それが あまりにも穏やかな声だったからだろうか、耳に残り何度も響いた。
段々と 雨音の間隔が狭くなっていく。
「…ユウ、早く帰ってきてさ」
言いたい事が有るから、とラビが付け足す。
「今言うつもりだったんじゃねぇのか?」
「うん。 気が変わった。 やっぱユウの顔見て言いたい」
--降りしきる雨。
決して好きではない。 この季節--この月は。
"気持ちよさそう"
「…冷たいだけだろ、馬鹿が」
誰に言うでも無いそれは 雨音に混じって消えていった。
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