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季節モノ置場
HappyLateValentineDay!

(バレンタイン限定公開だった小咄)

※とある〜+王道でのチョコレートなアレ



零時が何時もの重苦しい木製の扉をくぐったとき、ふと甘ったるい香りが鼻腔をくすぐった。
ふと、今日が何の日であるかを思い出す。

(いや、もう0時を回ったらから、昨日が、か。)

店の中にあるアンティークの時計を見て、ため息をつく。
気づかなければ、気にならなかったのに。
気づいてしまった。

恋人の日に、恋人と会わなかったことを。

会わない日の一日や二日は、ある。
だから今日会わなかったことも、さっきまでは全く気にならなかったことのに。


零時が少し沈んだ気持ちで店内を横切ると「零さん早く!」「俺たち我慢できないんですけど!」と、周囲から声をかけられた。
言葉の意味が分からず、首をかしげる。
周りの人間に視線で問いかけても、皆一様に笑って零時を見るばかりで。
零時は首をかしげたまま、自分の席へと歩みを進めた。

そして。


「・・・んだ、コレ・・・」


自分の定位置であるソファ席のテーブルに置かれた、巨大な茶色いツリー。
よく見ると、それはどうやら小さな丸い何かを積み上げられてできているらしく。
零時がそれに近づいてまじまじと見つめていると、背後から聞こえてきた小さな声。

「ぜ、零時、さんっ」

振り返ると、つい先ほど少しばかり切ない気分で思い浮かべたその姿が視界に映って、零時は驚きで目を見開き、口を開いた。

「雨、何やってんだ」
「えと、その、」
「そのトリュフツリー、雨ちゃんの手作りなんだって〜」

雨の肩を後ろから支える様にして姿を見せた幼馴染の姿に、零時は微かに眉をひそめた。

「雨、こっちこい」
「え、あ、その、」
「あーこわいこわい!男の嫉妬は醜いねぇ〜。はいはい。」

明らかにある種の敵意を潜ませた零時の視線に、早苗はにやにやと笑みを浮かべて、雨の背中をそっと零時の方へと押し出し。
ふらふらとその力に導かれるままに、雨の体は零時へと向かっていき。
そして零時の目の前で、その脚はぴたりと止まった。
しかし雨はうつむいたまま、零時の顔を見ることもできずにただただ自分の足元に目をさまよわせ。
零時は黙ったまま、その華奢な首筋を見下ろした。

しん、と店の中が鎮まる。
それは緊張感からくる張りつめたものではなく、どこか温かい沈黙で。

困ったように俯いたまま動きを止めてしまった雨に、それを見つめ続ける零時。
そんな膠着状態に一番はじめに飽きたのは、この店内にいる誰よりも幼い少年だった。


「雨っちから零さんへ、はっぴーばれんたいんでー。なんだってさぁ」


静まった店内に響いた緩い声に、雨と零時の顔が同時に上がる。
二人同時に見つめた先には、ソファの中に沈むようにして寝ころぶ少年の姿。
少年は勢いをつけて上半身を起き上がらせるとその顔を零時と雨の二人の方に向け、にんまりと笑みの形に歪めて見せた。

「もー、雨ったら2週間も前からスウィーツの本を読み漁って、僕に何度も相談してさぁ!今日だって、僕、朝から駆り出されてんだよ?こんだけでデカイのつくんの、めっちゃ大変でさぁー。大きさは愛の大きさだよねアハハ!もー雨、どんだけ零さんのこと好きなんだよってかん、」
「わーわーわーわー!!!ちょ、キ、キキキツネ!!」

怒涛のように流れる、流浪の交渉人ことキツネと呼ばれる少年の言葉に、雨は慌てて大声を張り上げた。

知られたくなかった。
こんな、女の子みたいにこのイベントを自分が楽しみにしていたなんて。
一緒に過ごしていても、全くこのチョコの日の話は出ていなかったから、零時は興味がないのだと思っていた。
だから、なかなか言い出せなくて。
でもどうしても何かしたくて、年下の頼れる友人に相談した結果、こうなったのだ。

お店で、パーティーみたくやっちゃえばいいんじゃない?
みんなへのお礼代わりとか言ってさ。友チョコの壮大な感じで。
日にちが気になるようなら、日付超えてからとかにしてさ。

あっけらかんと言われたキツネのその言葉は、とてつもなくいいアイデアの様に雨には思われた。
その裏に、この年下の友人への盲目的な信頼があるのは隠しようもないわけだけれども。
だから、零時が店に来たときには
(お世話になっている皆さんへのお礼です。零時さんもよかったら、どうぞ。)
と、言うはずだったのだ。事前にキツネと話し合った計画では。
なのに。

(キ、キツネのばかばか!な、なんで言っちゃうんだよ・・・!)

この悩みに悩んだ2週間(考え始めたのは1か月前からだ)のことも、今日必死にこれを作っていたこともばらされてしまった。
雨は恥ずかしさで、頬が熱くなるのを感じた。
湯気が出るんじゃないかというほど顔が熱くなって、いっそ消え入りたいと思ってしまう。
なんだかもうわけがわからなくなってしまって、再び俯いた雨の瞳から涙がこぼれそうになった、その時。


「美味ぇ」


聞こえた声に慌てて顔をあげると、いつの間にか零時はトリュフツリーの前にいて。
その手には一番てっぺんに飾られていた白いトリュフ。
半分齧ったそれを再び零時は口に放り込み、雨の方へと振り返って。

「お前は、ホント俺の好みがわかってんなぁ」

そう言ってかすかに笑った零時に、雨の表情は花が咲くようにふわりと輝いて。
そして零時がひそかに好む、はにかむような満面の笑みを浮かべて笑った。




「あーあーあー、デレデレですよ奥さん」
「あーあーあー、ありゃ相当我慢してますよ奥さん」

ふわふわと笑い合う凸凹なお騒がせカップルを見つめ、早苗とキツネは顔を近づけて囁き合う。
店内は、甘いチョコレートの香りが漂いはじめていて。
零時が食べるまでは食べちゃいけない、と厳命されていた甘党な人間たちが、こぞってトリュフツリーを崩し始めたのだ。
トリュフ一つ一つにデコレーションがしてある繊細なそれは、雨とそしてキツネの努力のたまものだ。

「零さんの頬、ちょーピクピクしてる。マジウケる。」
「笑うの我慢してんだろ。馬鹿だよなー、かっこつけすぎ。」
「これだから、零さんはさぁ・・・ってうわああ!?」

くすくすと笑い合う二人の顔の間に突然、一本の手が手刀のように振り下ろされて、顔の距離が離れる。
早苗はとっさに身を引きその手が直撃するのを免れたが、息がかかるほど近かった顔の距離が離されてむっと顔をしかめた。
そんな早苗には構わず、振り下ろされた腕はそのままキツネを抱え込んで。

「シッシッ。お前はお呼びじゃねーんだよ。」
「仲間なんだから、あっちで一緒に騒いでくればいいんじゃないか?」

そっくり同じ不機嫌な表情を浮かべた双子の兄弟が視界に映って、早苗はふん、と鼻で笑って笑みを浮かべた。

「今頃到着?」
「ウルセェよ。」

ぎり、と怒りでつりあがる瞳が優越感を感じさせて、早苗は笑みを深くする。
なんだかんだで特別な意味を持つ日を、目の前の愛し子と過ごしていたのがこの双子ではなく自分だということが嬉しくてたまらない。
自分を抱きこむ腕に少しも驚かずに抱えられているその子は、イベント事には興味が薄いから油断していたに違いない。
どこから情報が流れたか知らないが、知った時の慌てようを想像すると楽しくて仕方がなくなった。

「もう俺、キツネのチョコもらっちゃったもんね〜。」

ね?と首をかしげてキツネを見つめると、双子も、どういうことだ!と叫んでキツネを見た。
当の本人はと言えば、眠たそうに眼もとを手で擦るばかりで。
雨のチョコ作りの手伝いで、朝からずっと動いたせいで疲れて眠くなっているのだろう。
うとうとしているその姿さえかわいく見えて、そんな自分に早苗は内心苦笑を浮かべた。

チョコを貰ったといえども、それは味見で一つもらっただけ。
厳密にいえばもらってないのだろうけれども、モノは言い様なのだ。
攻められるところは、攻めておく。
これは、戦いの鉄則だ。

「眠いのか?」
「もう、帰ろう?」
「んー、いや・・・んー・・・」

双子が代わる代わる話しかけても、キツネの反応は薄い。
双子が困ったように顔を見合せてため息をついているのを、早苗はソファに肘をついて眺めた。

自分以外の男がその体を抱え込んでいる姿には、ちりりと胸が痛む。
けれど、その恋敵の困ったような様子と先ほどの嫉妬の視線で、早苗は少し溜飲を下げて。
もう一度、ふん、と満足げに鼻を鳴らして、双子とその腕に抱えられる愛しい子供を見つめたのだった。


HappyLateValentineDay!



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