季節モノ置場
HappyMerryXmas!
(クリスマス限定公開だった小咄)
※クリスマスイブ小咄の翌日
なんだか暖かい。
湯たんぽでも抱えているような優しい暖かさに、目をつむったまま思わずそれを抱え込んだ。
するともう一組の手にぶつかり、隣の片割れも同じようにそれを抱え込んだことに気がついた。
ふわふわとしたものが顎にあたって、くすぐったくて。
嗅ぎ慣れた甘い香りがふわふわとしたそれから漂って、その安心感にますますそれを抱え込んだ。
ぬるま湯に浸かっているような、幸せ。
いまだ居座る眠気も手伝って、もっともっとこのままでいたいともう一度眠りの世界にもっと深くしずみこもうとした。
しかし。
「・・・渡しに、いかな・・・きゃ」
掠れた喉から紡ぎだされたかすかな声は自分のものだろうか、片割れのものだろうか。
そうだ、今日はあの子にプレゼントを渡しにいかなければ。
どうせなら、あの子が起きておばさんとおじさんからのプレゼントを見つける前に、俺たちのプレゼントを見つけてほしい。
今日、一番初めに見るプレゼントにしたい。
親にだって、その役目は渡せない。渡したくない。
そのためには、あの子が起きる前に隣家に行かなければ。
そう思って起き上がろうとした瞬間、腕の中の温かいものが動いた。
寝起きの頭でぎょっとして、ぱっちり覚めた目で腕の中に抱え込んだソレを見る。
そして見てみて、もう一度仰天した。
『しま・・・!?』
俺たちの腕の中で眠りこけているのは、間違いなく今すぐ会いに行こうと思っていた隣家のあの子。
島を凝視してから、片割れと目を見合わせ、そして再び島に視線を戻した。
隣の家で寝ているはずのこの子がなぜ。
思い余って、無意識に攫ってきてしまったのだろうか。
ぐるぐると考えるも、まったく覚えはなく。
おばさんたちは、起きて島がいなかったらびっくりするんじゃないだろうか。
混乱している頭で、それでも慌てて島を揺すって起こした。
「しま、しま」
「何でここにいるの。・・・起きて、しま」
ゆっくりと開かれる真黒な瞳。
眠気にゆらゆらと揺れるそれは酷く綺麗だったけれど、ちゃんとその瞳に自分たちを映してもらいたい。
優しくマシュマロみたいな白い頬をさすると、やっとのことでとろんとした瞳に光が宿る。
大きく瞬いたその瞳が、しっかり自分たちを映したのを確認して。
『おはよう、島。』
そう挨拶すると、島が満面の笑みで「おはよう!」と返してきた。
そして、何かを思い出したようにはっ、と目を見開くと、慌てて自分のパジャマのポケットを探り始める。
その様子を首をかしげて見ていれば、勢いよく目の前に差し出された手のひら。
驚きで目を瞬いてみれば、島はとろけるような笑みでこう言った。
「兄ちゃん達に、サンタさんからプレゼント預かってきた!はい!」
小さな手のひらに乗っかっていたのは、小さく折りたたまれたチケットのように見えた。
息をのんでそれを受け取り広げると、そこに現れたのは下手な、けれど一生懸命に書かれた「なんでもやる券」の文字。
十枚つづりのそれはどう見ても手作りのもので、けれど裏面にもしっかりと「有こうきげん:むげん かんざきはる一、なつ一だけしかつかえません」の文字が書いてあって。
驚きでそれを見たまま固まってしまった俺たちを尻目に、島がその文字を指さす。
「これ一枚で、僕がにいちゃんたちの何でも屋さんになるんだー。」
俺たちを見上げて笑う。
「兄ちゃん達はすごいがんばってるから、手伝ってあげなさいってサンタさんに言われたの。兄ちゃん達のわがままを聞いてあげるんだよ、って。だから、兄ちゃん達は、それを使って僕にわがまま言っていいんだよ!」
そしたら僕、なんでもやるんだ!
そう言って細い腕に力瘤を作った島に、もう、どうしようもない感情がこみあげてしまって。
言葉にできない。
今、口を開いたら、意味不明な言葉が漏れ出てしまうだろう。
けれど。
けれど、じっとしてなんかいられない!
島を、二人で両側から思いっきりがむしゃらに抱き締めた。
こんなに僕たちを喜ばしてどうするんだ。
僕たちが喜ばせたかったのに!
こんな、こんな!
「今まで一番のクリスマスプレゼントだよ!」
細い首筋に額を当てて、ぐっと腕に力を込める。
片割れも反対側で同じようにしているのが、視界の端に映った。
髪が当たってくすぐったいのか、島は肩をすくめて笑って。
そして紡がれた言葉。
「僕、一番最初に、あげたかったんだ!」
ああ、もう!
もう、しゃべらないでくれ!
心臓が張り裂けそうだ!
この胸を荒らす嵐が治まるまでは、もうちょっとくすぐったさは我慢してもらおう。
だって君が起こしたんだから、責任を取ってくれ。
くすぐったさに笑う島の声を耳に心地よく聞きながら、俺たちのクリスマスの朝は始まった。
HappyMerryXmas!
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