短編 −sidestory@ ※一個前の「たぶん幸せな人生」の弟妹・攻め視点です。 ずんどこ暗いので、ご注意を。 それとAにだけ、少しグロ表現ありです。 幸せを亡くした人たちの話 気づいたら、たった一人、病院の長椅子に腰を掛けてうつむいていた。 俺は、何をしているんだろうか。 俺は、 俺は、 頭を動かそうにも、なぜか頭の中は真っ白で、何も考えることができない。 こんなこと生まれて初めてで、ただただ呆然と天井を見上げた。 ふいに、絹を裂くような叫び声が、俺の意識を切り裂く。 「いやあああぁぁぁ!!!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」 「起きてよ!起きてよお兄ちゃん!こ、こんなの、こんなの嘘だぁ・・・!」 「お医者様、お兄ちゃんを助けてよ!ねぇ、こんなところになんで置いておくの!?なんで!?」 「いやだ、いや、いやだよ、こんな、お兄ちゃ、」 喉を傷めんばかりの、叫び声。 まるで、断末魔のようだ。 ぼうっとしたままの頭で、声が聞こえてきた方を見つめる。 通路に並ぶ観音開きのドアの一つが、片方だけ開き、そこから声が聞こえてきているようだった。 鼻をすする音、絶えない嗚咽、泣き叫ぶ声。 そう、その中には今、”アイツ”の体が横たわっているから。 そう、自然に考えてから、不思議に思った。 ”アイツ”とは誰だ? 未だ途切れない叫び声に押し出されたかのように、一人の少年が後ずさりするようにその部屋から出てくる。 その顔は真っ青で、体は何かの発作の様にガタガタと震えている。 そしてそのまま廊下にへたり込み、おびえる様に頭を抱えた。 その少年を追いかける様に、その少年よりはもう少し年嵩の二人の少年が扉から出てくる。 一人は泣きはらした真っ赤な瞳で、何かから一緒に逃げるようにへたり込んだ少年を抱きしめ。 そしてもう一人の少年は、俺の存在に気づいて視線をこちらへと向けた。 この悲しみの坩堝といわんばかりの空間に一人、その少年だけが凪いだ瞳でいることに、酷く違和感を感じた。 ゆっくりとその少年がこちらに向かってくる。 俺はそれに身構えも、警戒も、親しくも、笑顔も浮かべること無く、ただその少年が自分の目の前までやってくるのを、ぼんやりと見つめていた。 その少年はよく近くで見ると、綺麗に整った顔をしていて。 理知的といえる、知性が見える。 (あぁ、”アイツ”が言ってた通りの、) [*前へ][次へ#] [戻る] |