短編 たぶん幸せな人生@ ※受け死ネタです。 ほのぼののつもりなのですが、全体的に薄暗いです。 浮気美形×不幸平凡 気づいたら体が地面から浮いていて、その上透け透けになっていた。 道を歩く人に話しかけても無視され、壁も楽々通り抜けられてしまう。 ここまでされれば、認めるしかないのだろう。 正直、突然すぎることで自覚も薄いのだが。 どうやら僕は、死んでしまったらしい。 こじんまりした自分の葬式を、人に見えない姿になったのだから見つかるわけでもないのだが、なんとなく中に入れずに外から覗きつつ、自分の人生を振り返る。 物心ついたときには親はなく、孤児院で育った。 同じ道をたどって孤独を抱え、我儘ばかりの弟妹たちの面倒を必死に見ていれば、孤独を痛感する暇もなく。 孤児院の助けになればと、バイトをしながら学校へ通った。 奨学金を受けながらとりあえず高校は卒業できて、よしがんばって働くぞ、と決意した矢先。 そんな時に、孤児院は財政難で潰れた。 施設の運営者は夜逃げして、真夜中へとへとになってバイトから帰ってきた俺は、そのことを弟妹たちに聞いて驚いたもんだ。 話ぐらいしていってよね、って感じだよね。 なんとか弟妹たちの受け入れ先を見つけ、身辺整理も終わった俺に残されたのは、奨学金の返済という借金生活。 高卒じゃあ大した仕事も決まらずに、いろんなバイトを掛け持ちで働き続けた。 力も体力もそんなある方じゃないから、無理をしては病院に通い。そして医療費に消えていくバイト代。 流石の僕も、ちょっと人生にくじけそうになったそんなある日。 僕は、恋をした。 なんてことはない。 僕が働くコンビニの常連客だったその人が、優しく僕に笑いかけてくれた。 それだけだった。 その笑みに、僕は一瞬で恋に落ちた。 大人たちに助けられたことはない。甘えられる環境でもなかった。 弟妹たちは自分のことに精いっぱいで、まさか僕が頼るわけにはいかなかった。 あの子たちもいろんな道にぶち当たって、僕にそれをぶつけては、乗り越えていたのだから。 それを悲観したことはない。そういう運命だったのだろうと思う。 少なくとも、誰かのためにいつも生きてこれた。そのことは、僕のアイデンティティになったのだから。 けれど、やっぱり優しさが欲しかったんだ。きっと。 一瞬触れたその優しさに、僕は心を奪われてしまった。 僕が恋したその人は、男の人だった。 その上、回りの人いわく『どうしようもない男』だった。 なんの因果か、その人の『恋人』になれた僕は、けれどいつだって『恋人』じゃあなかった。 たぶんその人の傍にいる人たちと全然違う毛色の僕を、物珍しく思って近くにいることを許したのだろうと思う。 キスはした。セックスもした。 けれど、その人がセックスする相手は、僕だけじゃなかった。 愛してると言われたこともない。 冷たい言葉を投げかけられたことは、何度も。 けれどなんとも残念なことに、そんな扱いに、僕は慣れていたから。 全然辛くも何ともなかった。 ただ。 好きな人と一緒にいることを許されている。 それが、夢のように嬉しかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |