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短編
なんで、僕なんですかね。(平凡異世界トリップ)
※平凡が異世界トリップしました。




「おーい、カザ。これ一つくれーぃ。」
「はい、毎度ありー」

村に住むトウじいちゃんが胃薬を片手に、僕のいるカウンターまでやってくる。
僕はそれを紙袋に入れながら、トウじいちゃんから紙幣を受け取って。
そして、「またなぁ、カザ」とガハハ笑いをしながら店を出ていくトウじいちゃんの背を、「気をつけて帰りなよー」と声をかけて見送った。
胃薬は漢方の様な変なにおいのする、粉薬。
よくある錠剤なんて、ここにはない。
そんでもって包んだ紙袋は、僕から見れば粗雑に作られた荒い紙でできていて。
ファックス用紙見たいな綺麗な紙なんて、そういや最近は見ていない。
ついでに言えば、今僕の着ている服も綿100パーセント。
一緒に暮らしているチイばあちゃんの手作りだ。

まぁなんだ。
僕が何を伝えたいのかと言えば。


僕、青山 風(アオヤマ カザ)は、今現在、うっかり異世界とも言うべき場所で暮らしております。


もと居た世界では高校二年だった僕は、ある日学校から帰宅し、家の玄関を開けたら、この世界に来てしまっていた。
びっくりでしょ。僕もびっくりだよ、マジデ。
「ただいまー」なんて悠長に声掛けてドア開けたら、森の中。
ぎょっとして振り返ってみれば、開けたばかりのドアは無く。
ぽつーん、と一人森の中に取り残された僕の気持ちわかりますか。
人間、びっくりしすぎると逆に冷静になるんですね。

現代の高校生らしくサバイバルの知識なんてまるでない僕は、夜になり真っ暗になってしまった森の中で狼たちの泣き声におびえ。
一睡もできないまま、三日間。

こういう展開の時って、こう、なんらかの偶然で助けてくれる人がいるもんじゃないのかな。

あ、それは主人公が女の子の時か。
なんて、心の中でつぶやきつつ森の中をさまよい。
水は湧水がいくらでもあったから飲めたけれども、食べるものは野いちごぐらいしか見当たらなかったので、正直限界を体験した。

そして、そんなぎりぎりな状態で三日目。
キノコを採りに来ていたラギじいさんと出会ったときには、ほろほろと涙をこぼしてしまった。
男なのに情けない、って言わんでくれ。
ほんとに、心身ともに限界だったんだからさ。



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あきゅろす。
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