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短編
−B


火葬場を出て、喪服のポケットに両手をつっこんだまま、青い空を見上げた。
先ほどまで見えていた、か細い煙は消えていて、雲ひとつない空が目に痛い。
”アイツ”が死んだその日から、俺の目はおかしくなった。
目に映る色がトーンダウンして見え、そして明るい色はじりりと目を傷めつける。
ぎゅ、と強く目を瞑り、俯く。
その時、背後からジャリ、と石を踏む音が聞こえて、俺は目を開くと同時に後ろを振り返った。

「骨、小さかったですね」

小さく笑みを浮かべながら、病院で通帳を突き出してきた”アイツ”の弟が、隣に並ぶ。
その背は俺に届くことはないが、しかしなかなかいい体つきをして将来の有望さを見せていた。
聞いたところ、まだ高校生だという。
”アイツ”の弟妹たちは、まだ幼い。下は小学生までいるという。
幸せそうにこの弟妹たちの話をしていた顔を、思い出す。
”アイツ”が大好きだといったその笑顔は、どうしたって見ることは叶わないけれども。

「小柄だったからな。」

抱き締めたときに、あまりのか細さに驚いたのを思い出す。
恐る恐る首に回された腕の感触、震える細い腰、抱き上げたときの体の重み。
次から次へと、こぼれる様に思い出す。

「ずっと・・・大きいと思っていました。一人で、立っている人だったから。」

そんなの、ただの虚勢だったんだしょうけど。
ハハ、と乾いた笑い声は、高校生の笑みとは思えないほど老成して。

「僕は、あなたに感謝しています。」

思わず、少年を見つめた。
自分は”アイツ”の恋人を名乗っていたが、それはきっと真実ではなかった。
自分は他にも関係を持つ人間がいたし、それについて”アイツ”が何かを言ってきたこともなかった。
恋人を名乗ることは、”アイツ”だけに許していたけれど、それは唯一”アイツ”が何も言わずに、俺を束縛しなかったからで。
少年は、見つめる俺を一瞥して、すっと視線を空へと逸らした。

「兄さんは、あなたに恋していた。あの人が唯一、恋した相手があなたでした。あの人に恋という気持ちを与えたのは、あなたでしょう?だから、」

そこで、少年は言葉を切った。
そして俺に視線を戻して、酷くおかしそうに笑って見せた。

「それに、あなたは兄さんを愛してくれていたらしい。・・・・・・あの日から、ずっと酷い顔ですよ。」

兄さんが褒めていた、綺麗な顔が台無しだ。

思わず、顔を片手で覆う。
すると、自分の手が小さく凍えているかのように震えているのが、わかった。
この小さな震えも、目に映る色彩と同じで、事故の日から治らない。


「形見分けは、自由にどうぞ。来週末には片付けますので、それまでに。」


そう言って少年は身をひるがえした。
たぶん、もう二度と会うことはないのだろう。
彼と俺をつなぐモノは、もうないのだから。



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あきゅろす。
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